意識問題。
「千秋?」
引っ張って屋上に連れて行けば、不思議そうに首を傾げられる。
「なぁ、千秋は俺が空に心を置くのが嫌なんだ?」
不意に鎮の方が口を開いた。俺からなにか言っていくんだろうと思ってたのに言いたいと思ったことが驚きで何処かに紛れていく。
「俺じゃダメだって思ってるから?」
でも、告げられている言葉の意図が掴めない。空ねぇ?
「ダメかもしれないけど、空は綺麗じゃないといけないんだ」
えっと、のろけ?
「空を傷つけるのは要らないんだよ?」
話題にイマイチついていけないでいると告げられた言葉に固まる。
「好きだよ。愛してるよ。千秋。不安にさせるつもりじゃなくてさ。……どうしたの?」
こっちの様子を窺いながらの独白。拒絶の後に混乱を誘うような物言い。言葉につけられていた疑問符は疑問符じゃなくて。最後でようやく俺に向けられた疑問符。
「わかんねーよ。なんでだよ! それも言われたからかよ!?」
「もちろん、そうだよ?」
あまりにあっさり告げられる言葉。
困ったような微苦笑。
言葉がつなげれない。
否定じゃなく肯定。まるで蛇口を捻れば溢れるのは水だというぐらい当たり前に。
混乱が深まる。対応ができない。
「でも、千秋は俺が嫌いでいつだって一人にするよね。俺はちゃんと千秋を愛せないといけないのに好きでいないといけない。ねぇ、千秋。俺が千秋を好きなのってちゃんと伝わってる?」
覗き込むような動作とともに紡がれる言葉。
それ、『好き』じゃないよ。
それは僕の欲しい『好き』じゃない。
「それとも、俺なんかがそこにいるのが嫌だった? それとも、千秋、空がほしいの?」
ちがう。違う。違うんだ。
「だから、俺が空と仲良くするように行動するのイヤなんだ?」
さっきから、鎮の声のトーンは一定で変わらない。
いろいろと違うと思うのにうまく伝えるべき言葉が出てこない。
言われてる言葉を理解し難いのにピンポイントで『違う』と理解できる。
理不尽に感じる。
「……誰にだっていい顔すんのも、言われてたからかよ」
なにか言い返さなきゃ。
「千秋?」
「いつだって誰にだって同じように手を伸ばすのは全部言われてたからかよ! じゃあ、空ねぇを好きだって言うのだって海ねぇにそういう機会を作られたから、そう思い込んでるだけじゃないのかよ!」
言っちゃいけない。
わかってない表情で鎮が僕を見ている。
悔しくて腹立たしくて、言っちゃいけないコトが音になっていた。
直樹さんが言った『遠慮して言わない。』これがそうなのかな? 今回は言い放ったんだけどさ。それとも『言わされた』のかな? わっかんねーや。でも、こわいんだと思う。他になにを『言われて』いるのかと思うのがこわい。
考えなければよかった?
いつも通り鎮はついてくるものだと思ってればよかった?
鎮は僕がなにをしても受け止めてくれる。認める。ただ、僕は悪くないと肯定してくれる。
それなのに、拒絶された。
拒絶するはずのない相手に拒絶されるのがありえなかった。
だから、当たり前が当たり前ではありえないことに気がついた。
鎮はどうして僕のすることを否定しないのか。問題なく受け入れるのがやっぱり、おかしいんだと。
でも、気がつかずに他に意識を向けることを否定し続ければよかったかなとも思うんだ。
そんな自分の思考が嫌になりそうだ。
なんで鎮のせいでこんな思考にならなきゃいけないんだろうなぁ。
「……そう、思う?」
ポツリとこぼされる不安そうな声。トーンがようやく変わった。
「そうじゃないかって思ってる」
でも築いてきたのは鎮だ。
水を差しても築き続けたのは鎮だ。だいいち遠回しにしか邪魔してねぇし、過剰唐突すぎるスキンシップは空ねぇだって翻弄されて困るのはマジだから調整しろは良識的な助言だっつーの!
言われてダメなら、ダメになればいいだろう?
「そう……」
「でも! 選んだのは鎮だろ?」
不思議そうな表情。
何でわかんねーんだよ。
「そう、なのかな?」
疑問を持ちはじめてるのに。
僕の言葉に疑問を持ってるのに。
一番を変えているくせに。
鎮のくせに。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
青空 海ちゃん、空ちゃん。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
高原直樹さん
お名前のみお借りしております。




