6/22 カメラと料理
「なんでさー、キッチンで作業してるんだと思う?」
「鎮兄がリクエストしたからー」
ぼやくと隆維が答えを提示する。
「一番綺麗につくんの千秋じゃん」
続くのは鎮の言葉。嬉しくないわけじゃないけどね。
「涼維、もう少し優しく混ぜて。つーか、作れって言うんなら手伝えよ」
「えー。ごめん。カメラの使い方覚えるのにさー」
笑って食材にレンズを向けてる鎮。人物には興味がないらしい。プリントアウトされた写真は朝の町だったり、夕暮れの河川敷だったり、夜の街灯だったり、自販機脇の吸い殻だったりした。で、今の対象は調理過程らしい。
「意外といろんな機能あるのなー」
「シャッターを押すだけでしょー?」
涼維、こだわってないと思ってたけど本気でこだわってなかったんだな。
もう少し、機能把握しといてやれよ。せっかく貰ったんならさ。
「撮りたいもの撮れてたらいいと思うんだからいいじゃん」
俺の視線にぶーたれる涼維。
「説明書、とってねぇんだもんなー。人感センサー? コレはいらねー。人が撮りたいわけじゃない時にさぁ人に焦点当てるのってどうかだよなー」
鎮が笑って言う。
普通は人間撮るんだと思うからいいんだと思うよ?
シャッター音。
写してるのは混ぜている最中のひき肉。椎茸とネギが彩り?
碧ちゃん、椎茸を抜こうという無駄な努力はしないの。
「隆維、千鶴ちゃんと変わってあげて。痒くなりそうだったらやめとけよ?」
長いもをすっている最中の千鶴ちゃんと交代させる。
「千鶴ちゃんは手、綺麗に洗ってきたらいいよ。少し赤くなってるから」
「ん。もうちょっと」
隆維がひょいっと器を取り上げる。いきなりとってやんな。
残り少なくなっていた長いもをすりきってしまう隆維。さっさと洗ってきたらと促してる。
白くすられた長いもに黄色の卵を混ぜ合わせていく。ゆっくり色付いて、純白ではない優しい色。所々まだ混ざってない白と黄色のマーブル。
「よし。シャッター音の消し方わかった!」
鎮。そこも悩んでたの?
「んー。あえて撮ってますよーってわかるようにしてたもーん」
涼維が言って、それに少しショックを受けた表情の鎮。
「え。これは聞けば良かったのかっ!?」
悔しそうだった。
「盗撮疑惑には気をつけてねー」
「確かそれ用の防水ケースあったと思うけど、いるー?」
隆維と涼維が笑う。
「ストーカー疑惑?」
碧ちゃんの発言に笑いが起こる。
日曜の朝は賑やかで、信じられないくらい和やか。こういう時間は久しぶりかも?
「防水ケース」
「持ってくるねー」
鎮が呟いて涼維がケースを取りに走る。
「水ん中撮るの?」
隆維が興味深げに尋ねる。
「わかんね。ただできることは試してはみたいかなー?」
で、なぜコンロを撮る。
「それにしても同んなじような写真が多いよな〜」
「そっか? 日と時間が違えば、やっぱ違うしさ〜。気に入った風景が切りとれると嬉しいしさ」
「コンロも?」
「コンロも」
鎮の基準がわからん。
「碧」
「え?」
一掬いトロロを口に放り込む。
「味は?」
「ちょっと、薄味」
じゃ、いっか。
「ミアもおしゃしんー」
「ノアもー」
声が聞こえてくる。
「わぁ。じゃあ、カメラとってくるー」
「えー。それはー」
「防水ケース!」
涼維はもうしばらく戻ってこないらしい。




