6/20 写真
頬に手を添える。
空からのキスは少ないから。
恥ずかしいと思ってるのを知っているから、それがすごく嬉しい。
まだ本調子でないのにホテルの裏口に駆けていく空を見送る。
帰る前にコンビニでツーショットの写真だけプリントアウト。
驚いた空の表情。
これから増える?
夏祭りでは浴衣かな? 浴衣じゃなくてもきっとかわいい格好。気がつく前に一枚は撮って、それからちゃんとも撮って、なんか食べてる時に気がつく前に撮りたいなぁ。怒るかな? 怒ってる時は撮りたいけど、あんまり怒っててはほしくないからなぁ。じゃあ、拗ねてたり困ってたりするのもあんまり撮れないのかな?
「かわいいじゃん」
ぱたりと伏せる。
振り返ればそこにいるのはミツル。
「ふつうのカップルぽくて二人とも可愛いんじゃねぇ?」
「見んな」
「機嫌、急降下?」
黙っていれば、肩をすくめ笑って見せる。
「知りたいことは今ないな?」
「ないよ」
ほっといてコンビニを出る。忘れ物はない。
メールの着信をコンビニの外でする。
いくつかの返信。
空に『ゆっくり休んで。ツーショットの分、プリントアウトしたらいる?』と送信。
「今日も夜遊び?」
「夜遊びなんかしてねぇよ」
二人の思い出は大切。その一瞬を大切にしたことを思い起こせるから。そう言ったのは誰だったんだろう?
母さんじゃない。セシリアママでもない。波織ちゃんでもない。
燃えていく写真。
彼女は写真を燃やしてた。何枚も、何枚も。
残るものはいらないと。
だから-------
「おい」
まだいたんだ?
「まだ制服なんだしさっさと帰れ」
「帰るよ」
反射的に答えてふと止まる。
帰るってどこに?
着信音に意識がそれる。
それは空の音。
『欲しい』という内容のメール。
『OK』それだけを返す。
「鎮」
「帰るよ」
帰るべきところへ。
返事はなく、ただライターの音が聞こえた。
「ねぇ」
「あん?」
「ミツルは誰についてるの?」
敵? 味方? みかた? てき? なんにたいして?
「誰にもついちゃいねーよ。ただ、俺はシステムに従ってんの。誰かなんて不確かに従えるほど信じられる相手が早々いるわけねぇだろ?」
ぐしゃりと撫でられる。
タバコの臭いが気に入らない。
彼女はよく吸ってはむせていた。
「残るものはいらないんだ」
そう彼女は言っていた。
彼女の残したデータは彼女の名前を残さず残っている。データの回収がしなきゃいけない事だったから。彼女の存在はまるでなかったかのように消えうせて、宙ぶらりんにデータだけが残ってる。
燃やす写真に写っていたのは男の子。
『母はイラナイの。だから未練が残っちゃイケナイ』
どうして手が届かないんだろう?
イラナイから?
俺『の』は手に残らない?
人形は俺のじゃないし、弟は俺が嫌いで、俺がいることが母さんの不幸。
「おかえり」
千秋が不思議そうに俺を見てくる。
「んー。ただいま」
そのままハグして二秒。押しのけられる。
ひょっこり現れたミアノアがタックルしてくる。
ぎゅうぎゅうとハグ。嬉しそうな二人が嬉しい。
ああ。ほっとする。
「ごはん、待ってたんだからねー」
「おなかすいたー」
涼維と隆維の声。
「えー。飯の準備は誰がー?」
「教えろって言うからみんなで作ってたよ」
千秋が答える。
「へぇ、千秋の飯って久しぶりな気がするなー」
「ちがうって、合作!」
楽しげに隆維が笑う。
「なに? 空ねぇと食べてきたとか?」
芹香がにやりと尋ねてくる。
「うんにゃ、荷物置いて、手、洗ってくるって」
暖かな空気。家。
俺の、帰るべき場所?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より青空空ちゃん話題等ちらりお借りしております。




