6/20 ほーかごデート
帰り支度をして急いで教室を出る。
「鎮?」
急ぐ俺を呼び止めたのは、千秋の友達で木野江逸美だ。
「ん?」
なんかようかな?
「今日も、いつもの?」
確認されたから頷く。
「いつもならもう少しゆっくりじゃなかった?」
「今日は急いでるんだよ。また、来週なー」
軽く挨拶を残して、学校を出る。
自然、急ぎ足。
空が熱を出したのは火曜日。昼時に一応チェックしたメールによれば、今日はバイトに行っているらしかった。
あんなに調子が悪そうだったし、昨日はともかく一昨日は天候不順。急に暑くなってきたりもしている。
崩した体調にきついんじゃないかと思うと心配だった。
今、心配してても仕方ないのはわかってるけど、こればっかりはどうしようもない。心配だから。
帰り、電車の方がいいかな?
歩く距離は少ない方がいいのかな?
それとも、体調悪いから人が多い場所は避けた方がいいかな?
大丈夫って言ってたけど、心配が止まらない。
空はいつもより顔色が悪くて、疲れて見えた。そりゃ、火曜よりはましだけどさ。
店長さんも心配していたらしく、あがっていいよって言ってくれた。
もしかしたら、心配そうな俺が営業妨害だったのかもと思わなくもないけど、いいや。
「大丈夫だよ」
そう言って笑う姿がしんどそう。
「電車で、帰る? それとも酔いそう?」
聞きながら、自販機でスポーツドリンクとお茶を買っておく。水の方が良かったかな? 水は学校そばで買った分がそろそろ常温かな?
日差し遮れた方がいいのかな?
ぎゅっと抱きしめてから黒い瞳を覗き込む。
「顔色が悪いから心配」
いろんな空は見たいけど、体調が良くなさそうな時は心配が勝つ。
そりゃあ、儚げさアップで保護欲マックス。あんまり人目に晒したくない感じ?
「寒かったりしねぇ? 気持ち悪くなったらすぐ教えて?」
あんまりに過保護だったのか、空が小さく笑う。ちょっと、呆れられた感じ?
「いつもと一緒でいいよ。ゆっくりかえろ」
ね。大丈夫なんだよって言うように空の手が俺の頬を滑る。
こつんとひたいを合わせれば少し、熱っぽくて。
「二日間ちゃんと寝てたし、本当にだいじ……」
口を塞ぐ。
「口ん中、熱い。無理してる?」
ずらした帽子が飛ばないように直す。
体温が上がって赤いのか、恥ずかしさで熱が上がったのか、頬を染める空。
潤んだ瞳が可愛くて目元にキスを落す。
「無理して、欲しくないんだ」
「〜〜っ! ……だ、って……鎮君に、会える日なんだもん……」
その言葉が可愛くて、嬉しくて、抱きしめて、こめかみにキス。
耳に近い位置のせいかびくりと震える体。
もう一度キスをする。耳をくわえたい気にも駆られるけれど我慢。
「無理、しないでほしいんだ。空」
ぎゅっと強めに抱きしめる。
こわいんだ。いなくならないで。
「そーだ。風邪、うつせば治る? じゃあ、たくさん、キスしたらうつるかな?」
囁いてから覗き込んだら、空が真っ赤な顔で口元を抑えて首を左右に振っていた。
「えー。そんなにキスいやー?」
「〜〜〜っ。キスじゃ、なくって」
カシャ
「カシャ?」
きょとんとする空にカメラを見せる。
「かわいい空を切り取ってみた」
「……? 涼維君のカメラ?」
「新しいカメラ送ってもらったらしくて、空いてるから使ってみればって渡されたんだ。一番最初に撮るのは空がいいなって思ってたんだ」
少し、落ち着いていたのが嘘のように空がまた赤くなった。
「ぇ。……さっきのカシャ、それって、ぇえ?」
「羞恥に悶える空。すっごくかわいい!」
カメラに手を伸ばしかけたりしてぁうぁうしてる空はかわいいんだけど、撮りたいんだけど、流石にちょっと罪悪感があるかなぁ。
「誰にも見せない。それと他の人も撮らない。空だけ。あと風景とかしか撮らない。それでもダメ?」
反則的な上目遣い。
この瞬間を切りとりたいし、実際に見続けてもいたい。
「絶対。誰にも見せない。俺だけの宝物にする。約束する。それでもイヤならデータ、消すからさ」
困ったようなはにかむような笑顔。
「……は、恥ずかしい写真ばっかりはダメなんだよ?」
オーケーが出て嬉しくなる。ぎゅっと抱きしめなおす。
そのまま手を伸ばしてシャッターをきる。
「ツーショット♪ ……恥ずかしい?」
ブレてないといいな。すぐ確認できるのはデジカメのいいところ。
ぽふりと腕に空の重み。顔を上げてくれない。
「公園に着いたら休憩しよ? スポーツドリンクとお茶はまだ冷たいし、そろそろ常温の水もあるからさ」
こくんと頷いてくれるのを感じる。
うーん。
調子に乗りすぎた?
「熱、上がった? 気分悪い? ごめん。調子乗りすぎた?」
じっと感じる視線。フィルター越しじゃなくて自分で見てる空が好きだ。
「好きだよ。空」
「汗とかかいてねぇ? シートあるからさ、使う? あ、水分補給どれにする? フルーツ系の方がよかった?」
公園でベンチに座らせて尋ねていく。
「一度にはできないよ」
一気に言いすぎたらしい。
くすくす笑う空がかわいい。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より青空空さんお借りしております




