ショッピングモール撮影の序章。
「SARAさん、今回はうろな町って田舎町が撮影舞台らしいですよぉ」
ふらりと居間に入ってきた少女が報告してくる。
ソファに座ってクッションをひとつ抱き込む。
「ユナちゃん」
「ショッピングモールからの宣伝依頼があって予定が今回あったんでいくよー」
少女の背後から20代半ばの青年、マネージャーが端末片手に宣言。
「ですってー。楽しみましょーね」
ユナちゃんは今売り出し中のアイドル。同じ事務所の後輩。
公式の趣味に「旅行好き」となっていて、いろんなところへ撮影に出かける。
露出の多い温泉が多いけれど本人は楽しそうだ。
ニコニコしてて、ズレてるところもあるけれどなにより人目を引くという華がある。
それに対して私は結構埋没系。
なのだが、なぜか今ちょっと追いかけられ中。
友人の俳優夫妻、その夫の方との不倫疑惑が上がっている最中。
おかげでただでさえ少ない仕事が絶賛激減中だ。
マイナス評価を受けても印象強い存在ならいいが、どうも印象が悪い。というか薄い。
事実無根のただの疑惑。
というか、ストーカーぽいのがいるという相談を受けていただけだ。
奥さんとも友達だ。
事務所の社長が苦笑して「しばらくほとぼりを冷まそう」と事実上の休業宣言を出した。
当の夫妻からもメールで謝罪がきた。
でも、私の印象は現在「不倫相手の女」なのだ。
まぁ、現場から離れれば2ヶ月たたずに忘れられる自信はある。
「むかない」といわれてなお残った職場。
兄や、姉のように器用になれず、輝くには何かが足りないといわれ、足手まといにならない引き立て役に徹した10年近く。
新しい何かが出来る自信もないのに今までの居場所も失うという。
最後の仕事。
うろな町でのショッピングモール宣伝撮影。
多分、ユナちゃんはこれが最後の仕事になるんだということを知ってて明るく振舞ってくれている。
「そうね。ユナちゃんと旅行は楽しみだわ。前みたいに食べ過ぎリバースはごめんだからね」
からかうとすぐにふくれっつらになる。
「あれは運転が荒かったからですよーだ」
べーっと舌を突き出して反論してから、ころりと笑顔になる。
「SARAねえさんといけるのは本当に嬉しいんですよー。泣きそうだけど、いい思い出作っちゃうぞー」
「あははー。ありがとー」
「だっておかーさんみたいなんだもーん」
「ユナちゃんみたいな大きい子供のいる年齢じゃないぞー」
ユナちゃんのほっぺをぐりぐり。
人生二度目のうろな町。
そこはきっと人生の転機。
ゴシップ好きな人が少ないといいな。




