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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014夏
528/823

6/14 土曜のとある一室

 マンションの窓から見る景色は雨にけぶっている。

「つまり不満じゃないんだ?」

「べっつにー。千秋の説得も手伝ってくれたしさー」

「たまたまの流れだけどね。タバコは吸わないでくれる? 臭いが染み付くから嫌いなんだよ」

 軽く舌打ちをして揉消す。

「でもアイツのどこがいいわけ?」

「体」

 響くように返ってきて噴出す。

「勝気なトコと騙されやすいバカっぽそうなトコもいいなとは思う」

「初モノじゃねぇぜ?」

 教えてやれば薄くせせら笑われる。

「いつか失うものだろ? コレからを囲い込めればいいって考えるね。ま、幸いにして立場を弁えた妻が必要な立場からは外れたしね」

 淹れてやったコーヒーを飲みながら奴は笑う。

「ふーん。いくら出す?」

「手切れ金?」

 軽く腕を組んで考えるポーズ。

「払うんなら別に払うよ。彼女が君に幻滅して諦めてしまったら彼女らしさが消えるかもって思えば行動も取りにくいんだ。君が好きな彼女が好きなんだよ」

 わけのわからないことを言われて悩む。

「わからない? 自然な流れで傷つく分は必要だけど、僕の動きのせいで傷つくような状況は好みじゃないんだ。彼女の個性はそのままに囲い込みたいからね」

 よくわからない。

「つまり欲求はねぇのか?」

「あるよ。なに言ってるの?」

 はぁっとため息を吐かれる。

 奴の手元には文字でいっぱいのペーパーブック。読み終わればしおりや、チェックを残して本棚に差し込む。書店がつけるカバーのせいでタイトルはわからない。

「どの状況が彼女の好みかはまだ探っているトコなんだよね。ゆっくりとその工程も楽しんでいきたいんだ。だって彼女は君のものじゃないんだろう? 恋人じゃなく金づるだろう? だからさ、彼女を通じて僕の金を将来にわたって引き出しても構わないって言ってるんだ。もちろん、限度は弁えてほしいけどね」

「やっほー。そういっちゃん。今日も雨だよー」

 ドアが開いてのんきな鎮の声が聞こえる。

「あれ。有坂いたの? そういっちゃん留守? こんにちは、恭くん」

「こんにちは。鎮さん」

 ふわりと外面笑顔。

「そっちの学校はどう? やっぱ弟妹と離れてるの寂しい?」

 問われて軽く思い返すような悩むポーズで間を取ってからにこりと笑う。

「寂しいのは確かですね。でも、宗が自分の道を確立しようとしてるのは応援すべきだと思ってますよ?」

 キッチンに食材を持ち込みながら鎮が首を揺らす。

「ふぅん。でもさ、それがイヤだったの恭くんだよね?」

 ぱちりと瞬く恭。妙に鎮も突っ込む時があるからな。

「そうですよ。でも、方向性を定めて立つのなら見守るのも手ですから」

 さわやかな口調を変えることなく続ける恭。

「ふぅん」

「鎮さんはどうしたいんです?」

「俺?」

「そうです。ちなみに決まってないなら適当でも進学をオススメします。畑違いに進んでも良いわけですし。無駄になる経験は何一つとして存在しませんよ。失敗も成功も踏み間違いも大切な経験ですよ」

「踏み間違いって」

 小さな笑いがおこる。俺は怖いんだけどな。

「生きて最終望む物を手にしたほうが勝ちですよ。欲しいものはなんですか?」

 妙に生きた心地のしない温度のない空間と時間。

「空がいる今に不満なんかないなー。適当進学かー。いいのかなー?」

 温度が戻る。

 ほっとする。

「したいことが見つかったら切り替えればいいでしょう? 宗が手伝うなら僕も手伝いますよ? もちろん、喜んで」

 恭の言葉に鎮がコップにお茶を注ぐ。勝手知ったる宗の家。

「健さん、おかわり」

 にこにこと差し出されるマグカップ。

 舌打ちをして俺はコーヒーを注ぎに行くことにした。


「んでさ。鎮、やっぱ一発で差がわかるもん?」

 キッチンでお茶を飲みながら首を傾げる鎮。

「恭くんとそういっちゃんはけっこう違うからさ。ノワールと恭くんの印象は近いから彼がモデルなのかな?」

「しらねぇよ。お前も飲む?」

「うん。有坂は学校楽しい?」

 セットし終えてから、がりっと頭を掻く。

「まぁ、……たのしいさ」


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

空さんお名前だけチラッと

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