6/3 ほーかごデート
「空!」
嬉しそうな空の笑顔。
うん。俺も嬉しい。
俺に気がついて、見せる笑顔が好き。
だから迎えに来る日は楽しみ。
ただ、本格的に梅雨に入ってきたら電車とかもコースに入れるべきだろうなぁ。
二人っきりじゃないのはちょっとアレだけど、その時は時間に余裕が出るからモールでぶらついてもいつもと違ってイイよな。
そんなことを考えながら空を抱きしめる。
そしてどちらかが言い出す「帰ろう」
「千秋くん、大丈夫?」
切り出しにくそうにチラチラ見てきてたなと思ったら千秋の話題。週末最後ばたついたもんなと思う。
「金曜はちゃんと送れなくてごめんな」
そんなことはいいのと首を振る空。
結局、運ぶのは、そばに居たグリフ兄さんが派遣してる警備の人が手伝ってくれた。
千秋のバイト先での仲間でもある。
だからだったのか、エルザも様子見に現れた。
「きのーの昼ぐらいに起きてきて飯は食ったらしいよ? 帰ったら機嫌は悪かったけど。落ち着いてるかなぁ」
心配そうな眼差しにどう言えば安心するかと悩む。
ああ、そうだ。
思いついた話の振り先にちょっとドキドキしながら説明を続ける。
「昨夜は千秋、ゼリーを溺愛してたけど、ゼリーへの溺愛は行き過ぎると信にーが注意するだろうし、そんなに引きずらないと思うけどさ」
うん。やっぱりこのくらいじゃ心配そうな表情は解けない。
チラチラ横目で見つつ歩を進める。
「あのさ、隆維にさー。まぁ他の連中にもなんだけど」
「ん?」
途切れた言葉に不思議そうに見上げてくる。
あ、軽く傾ける首と髪の流れ、表情が愛らしい。やっぱり見上げてくる表情は反則。眼差し、かなぁ。
自然速度が落ちる。
「愛してるよ。って囁いてみたんだ。日ごろの感情をたまにはちゃんと伝えてみようと思ってさ」
耳元に囁くように情報を流しつつ、肩に手を回す。
「~~」
ぱっと頬を染め、反応に困る空がかわいい。恥ずかしそうにうつむいてしまう。その仕草も好き。
「そしたらさー。あ、てはじめが微熱ぎみ隆維だったんだけどさ、涼維がなぜか隆維とっちゃダメってわけのわからないキレ方してさー、ご飯、一緒に食べてあげないって言うんだぜー。発言は可愛いんだけど、実行しやがってさー。飯時さみしー」
ただの日常会話。『さみしー』って空をぎゅっと抱く。
「ミアやノアは素直に愛してるーって返してくれるのにさー。ひでーよなー」
愚痴りながら抱きしめる体勢。手探りでそっと手をみつけて指を絡める。
「俺は俺の中の好きの中で空が一番好き。だからさ、そら。愛してるよ」
抱きしめる空はあたたかい。
生温く絡みつく熱も川の風に解ける。
大好きで大切。
俺のいちばん。
うつむいたまま、黙り込んでいる空にちょっと不安になる。
「……空?」
そっと頬に指を這わせると指先に濡れた感触。
え?
「空!?」
慌てる。
「俺、何か嫌なこと言っちゃった!?」
ダメなコト言った?
傷つけるつもりじゃなかったのに。黙って泣かせてしまうくらい嫌なコト言ってた? ダメだった? 俺からの『愛してる』はダメだった?
「……違うの。……いや、だからじゃないの……」
「でも」
どうして、こう、うまくできない?
なにも上手に出来ない?
思考がぐるぐる回る。
「本当だよ? ……だって」
ほろほろとこぼれる涙は綺麗だけど、それでも空を泣かしてしまったのは事実で。
そこに、笑顔と共にホロリとこぼれるように告げられる言葉。
「嬉しいから、なんだもの」
え?
◆◇◆
二人で夕暮れ時の河川敷を海へと向かう。
言葉のないそれでも居心地のいい時間。
「俺さぁ。自分でちゃんと『愛してる』って理解してるかどうかわかんねぇ。でもさ、俺がわかる中で空が一番なんだ。空がそのままでいいって受け入れてくれてるのわかってるのに。だからこそ、かなぁ。怖いんだ」
空の手を引いて、覚えた空のペースで歩く。
本当に怖いんだ。
見えない何かにダメだよと判断された時、俺はその否定の判定より『空が好き』という心を残せるのか。
答えがぶれる時、とても、とても怖くなる。
ぎゅっと空の手に力がこもるのを感じる。
「空が好きだから先が怖い」
空がいるからまだいてもいいかなって思う。
するりと絡みつく空の手。
言葉じゃなく『大丈夫』と示す空の体温。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より青空空ちゃんお借りいたしました☆




