6/6 選択授業(定時)
「ミホ」
飛鳥の呼び声にはたっと気がつく。
「へへ。なぁに〜」
「次、美術」
あ。結構面白いんだよね。
書道と美術とどっちか選べてさ。
書道ってカタそうでやめた。
健は書道の方を選んだから、ちょっと残念。
今までやった授業は銅版画とかマーブル?とかだ。
「えっと、今日からは何するって言ってたっけ〜?」
「木製の小物入れ作成。ステンシルって言ってたと思う」
で、選択授業は四月からの生徒も合同。
所持単位的に三年生相当の飛鳥は四月からの生徒、そっちに三年から引きこもって昼の高校をリタイアしたのがいるからその生徒と授業だ。少人数学力別な感じ?
だから今はクラスメイトとは言いにくいけど、仲間だし〜。
「ミホ、なんかあった?」
「ん? ないよ?」
健がツレないくらい。
いつも通りといえばいつも通りだし。
「るーちゃんと一緒に書道にすればよかったかなー? ねーさんもそっちだしなー」
「字が綺麗に書けるのは特典かも? 年賀状とか」
「飛鳥は年賀状とか書く人ぉ?」
「書かないな。本当は上司とかに出した方がいいのはわかってはいるんだけどね」
四月から先生の人員がかなり変わった。
いちおう、やる気のある生徒が多いようであることと、年度の変わり目がやっぱり赴任しやすいらしい。
最近、飛鳥は遅刻等が少ない。
「ああ、期末までは忙しかったけど今は繁忙期から閑散期になってるかなぁ」
「ヒロタカの忌引きからの動きは〜?」
最近きてないのだ。
「実家の処理中らしいよ? 先輩が手伝いに行ってる。言っちゃ悪いけど、この時期でまだ良かったって」
「そっか」
大変なんだなって思う。
「ミホ?」
「んー。好きって告白されたんだー。断ったんだけどね〜」
「どんな人だったの?」
飛鳥の眼差しに警戒が入る。
結構男嫌いだよね。特に健みたいなタイプ。
「昼のがっこに行ってる子で、いっこ下。大学の学祭覗きに行った時に向こうも来ててさ。それがきっかけ。向こうは友達と来ててさ。ミホが絡まれてたとこを一応助けてくれたんだ。自分たちのグループのフリしてくれて」
「困ってたの?」
首を横に振ると髪の毛が大きく舞う。
そろそろ切る時期かな?
「そのままカモろうと思ってた」
まあ、彼が全部おごってくれたけどね。
「いい人じゃないの?」
暗に健よりましって言われてる気分になるのは、癪に障るんだけどなー。
「女の子は好きになるより、好きになってもらった方が幸せだとでも言うのか〜」
うりゃっと飛鳥に抱きつく。
「好きになってもらったって、好きでたまらなくたって、一番の問題は相手の人柄と性癖が自分とあってるかが大事なのよ! どこまでを許せるかだと思うわ。お互いに、ね」
「そんなの付き合ってみなきゃわかんないじゃない」
はんっと吐き捨てるように息を吐く飛鳥はちょっとやさぐれてるっぽい。
「ちーちゃんと健はダメね。相手を利用することを気にしないところがあるという意味、友人として枠に入れてもらえればいいけど、恋人としてはちゃんと一番に見てもらえるかが大事になるわね」
「うっ」
「それと、ヒロタカとしーちゃんもダメ。あのタイプは黙っていきなり切れた時の対応をミスると終わりだし」
「うう」
「と、いってもね」
「ん?」
「最終、相性ね。補えればいいの。お互いが満足できる関係を築ける相手ならね。ただ、あたしの母親と姉はろくでなしに引っかかったからね。私は同じ轍を踏みたくないの」
LED照明の廊下ふっと手を引かれる。
「いこう。遅刻したくないわ」
「ねぇ、飛鳥、お母さんとお姉さんは?」
美術室にむかいながら飛鳥の声を拾う。
廊下の窓ガラスに打ちつける雨。
「二人とも夫に殺されたわ」
「それにね、ダメだったかもしれなくても、何とかなったかもしれない道筋を絶ったしーちゃんを許せないんだよ」




