6/1 進路相談01
赤ん坊は小さくて可愛くて無防備。
新聞屋のおっちゃんのトコで一配りバイトして、帰りついでに人の不配をフォロー。その場所が新清水邸そばだった。
『俺が不配したわけじゃねぇ』と言い訳しつつお茶を出してもらった。『週末の代配は割がいいから』と説明しつつ、世話をされている赤ん坊達を見る。
そんな中で、やりたいコトがわからないのか? そう聞いてくる小梅センセ。
倫子センセから聞いてるのかな?
そしてやりたいコトなんかわからない。
「配達系のバイトでもして稼いでいこーかなー、とかねー」
これなら問題なくできる。
進学は学力と金銭問題はないからできる。でも、どうしたいかがわからない。
実際、千秋は経済系に進むらしいし。冬からその系統の参考書を開いていた。
異母兄であるロバート兄と微妙に連絡を取り合ってるらしいし。
何をやっているかわからない。
「資産運用のノウハウ~」と色んな資料に目を通しているのを知っている。
最終グリフ兄さんの手伝いができるように目指していくらしい。
でも、俺には自分には責任のある行動が自分にとれるとは思えなくて。
本を読んで没頭してられるのは好きだと思える。体を動かすことだって嫌いじゃない。
じゃあ何がしたいと問われると困ってしまう。
伯父さんは小さなころから自分のやりたいことに没頭してきた人だから、わからないことがわからない。たぶん、さーやちゃんも同様。
「誰かが決めてくれたらいいのにって思うなー」
湯飲みを回しながら波紋を見つめる。
「それはお前が決めることだろう?」
小梅センセの仕方なさそうな声が優しい。
その視線を見たくなくて半分ほどに減っている湯飲みの中をじっと見続ける。
「だって、俺はずっと……いなくなりたい。先なんか見えない」
「今。も、か?」
「っん。いなくなったりしねぇよ? それはダメだし、今は、空がいるから」
ずっと、自分がいるのが間違っている。そんな思いがこびりつく。
自分の行動で千秋が機嫌悪くなることもたくさんあるし、母さんは過去を思い出す。
大丈夫だと笑ってゆっくり進めば良いと言った人は俺を慰めに、落ち着かせに来たから死んだ。
兄さんも言ってた。『父親にそっくり』千秋には向けられない言葉。
そして心のどこかで、一生懸命手を差し伸べる少女達の姿に、より効果的に傷つけばいいと確かに望んでしまっていた自分。
最低だなぁと思う。
息を吐いて空を見上げる。
「でもさ、そこまででさ、何になりたいかとか、何をしたいかって言われてもわかんねぇ。ただ空のそばにいたいしか、今は見えない」
空は綺麗で優しい。汚しそうで怖いのに俺がいいってそれでもいいって言ってくれる。
綺麗でいてほしくて離れたほうがイイかとも思うけれど、その手を離せない。
ちらりとセンセを見る。
少し難しそうな物思いに耽るような表情。
「あ。うろなにいたいって言うのもある! アメリカに帰ってこないかとか、……無理は言わないけれど、父方の祖父母に会ってみないかとか向こうの伯父さんに言われるけど、そーいうのはさ、考えたく、ないんだ」
誘われる理由に国籍選択の時期が近いのもあるんだろうなと思う。
ふぅっとため息がこぼれる。考えると気が重い。
「小梅センセー、俺にオススメの進路ってなんだと思うー?」
高校は近場って基準でうろ高決めたしなー。
「千秋は資産管理でー、隆維はなんかの財団のお偉いさんでーノアはお医者さんでー涼維は隆維のお手伝い。芹香は悪の組織の女王様。ミアはまだわかんなくてミラちゃんは夜の狩人。コレちょっと難有りだよねー。んで、碧ちゃんと千鶴ちゃんは堅実に公務員か、事務能力を身につけてベテラン事務員」
それぞれの未来は華やかだなぁと思う。
「そういっちゃんに総督の介護でもやりますかって聞かれたけどさー、総督自力でいろいろやるし、せっちゃんってヘルパーいるんだぜー。俺出るマクないしー」
むこうに戻る選択肢の場合、勉強しながら資料整理の日々になるんだろうなという予想はあるけどさ。そっちは選択しないわけだし。
チビちゃんと視線が合ったから指をうごうごと動かすとじっと動きを追ってくる。おもしれぇ。
「やっぱりさっぱり先が決めれねぇ」
「お前が好きだと思えることはなんだ?」
「え? 空?」
考えるより前にそう答えると小梅センセが困ったように笑って頭を軽く叩いてくる。
「それが一番なんだな」
「んー。たぶん?」
「たぶん、だと?」
首を捻りながら自信なく答えればぎろりと睨まれる。慌てて視線を逸らす。
「うん。よくわかんなくなることもあるしさ。ダメだって急に思うこともあるんだ」
「それはどうしてだ?」
「んー。わかんねぇ」
「投げずに考えろ」
仕方なく思考を追う。うまく説明にもっていけるかなぁ?
「えー? んー。前はさぁ。こうしなさいって言ってもらえてたんだけど、今は自分で決めろって言われるんだよなー。実はよくわかんないまま積んでった感じ。『お兄さん』ってわかんなかった時に、家族をテーマにした本を読んで、こういうのかなって思って、それでも他のバージョンもあるからどれがいいのか模索しながら重ねていって、結局、頼れる『お兄さん』にはなれなかった感じかなー」
チラッと小梅センセのほうを見るとかちりと視線が合ってちょっと焦る。
見てる。見てる。見すぎ。圧迫ーーー。
えーっと、他に思い当たる理由になりそうなこと、何かあった?
「これは嫌だってことは?」
「空が嫌な思いをすること。……それと、あと誰かが嫌な思いをしてるのは嫌なんだけど、空回りしかできない自分がやっぱ嫌」
踏み込んで役にたとうとして追い込みそうで何もできない自分が嫌だ。
「だから、結局、千秋には嫌われたままだし、隆維と涼維は俺を頼ることはないし、母さんには怖がられる」
芹香だって俺を突き放す。
「それに、こうすべきって判断が時々、二つ浮かんでわからなくなるんだ。正しい判断がどっちなのかが選びにくくなるんだ」
感情線と判断線がうまく混じらず、その上で判断線がぶれるから混乱する。
なんとなく、喋りすぎた気がする。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
より小梅先生&桜也くん桃香ちゃん
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より空ちゃん(名前のみ
お借りしております。




