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金曜日はバタバタだった。
ジェムが動かなくなって、泣きじゃくるミアノアにおののくアリア。
騒ぎの隙をぬって鎮兄が千秋兄を部屋に放り込む。
「もう、痛くも苦しくもないんだよ」
不思議そうなアリアの言葉。
「痛くても、苦しくても、生きていくならその先の幸せを求めて見つけるんだよ! 死んだ方がマシだなんて痛みは知らないけどさ。独りになりたくねぇんなら生きるしかないんだ。独りになりたい? 誰かを独りにしたいのかよ?」
反応したの隆維。
ぎゅうっと抱きしめる。
今、痛くても、辛くてもいるコト、それを選んだ隆維には許せない否定。
痛くて苦しくても『生きる』コトを望む。
そばにいてくれるコトを選んでくれた。
隆維の体が熱い。
多分、カッとして熱が出たんだと思う。
首を傾げて不思議そうなアリアはわかっていない。
すんッと隆維が呼吸を整える。
ぽんっと手を離せと促されミアノアに視線を送る。聞かせるなってコトだ。
「ミアもノアもこっちなの〜」
両手に妹たちを引き連れてミラが動く。
ミラはずっとアリアに無関心でいた。
ぎゅっと隆維がアリアを抱きしめる。
「痛いコトも辛いコトも苦しいコトだって、それは、欲しくないけど、『いて欲しい』と望まれるから、そんな風に望んでくれる誰かに会うために乗り越えるんだよ。アリアは誰かにいて欲しいと望まれて『苦しくてつらい』から望まないでって思うの?」
きょとんと、それでも言葉を理解しようとしてるのかアリアの視線がさまよう。
「いなくなったら、アリアに会えて『嬉しいよ』って言ってくれる人に会えないんだ。アリアがこの人に会えて『嬉しい』って思える人に会えないんだ」
……隆維にとって雪姫さんかな。
「痛くても苦しくても、俺は今は死んでイイなんて思えない。誰かに一人にでも『生きて』と望まれるなら」
手を伸ばしたいのを我慢する。
「生きてるコトを選びたくて、それはきっとジェムだって一緒だったんだ。生きてるモノは生きようとするんだよ?」
アリアが首を傾げる。
「苦しくても?」
「好きな人のそばにいたいだろ?」
理解できないままの笑顔でアリアが隆維の腕に絡む。
「うん。そばにいたいの」
アリアの言葉が上っ面を滑る。
「隆維」
声に振り返れば父さんが来ていた。
「休まないとな」と囁く父さんに隆維も頷く。父さんの視線が俺を見て、俺がアリアを見てやらないといけないのがわかった。
「アリア、わかれそう?」
ふわりと俺を振りあおぐアリアは綺麗に笑っている。
「難しいの。……隆維。苦しいの好き?」
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
より雪姫さん(ちらっとお名前のみ
理解できない少女へ手を差し伸べたいと思えない。
それでも手を差し伸べる兄がいる。




