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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014春
517/823

6/2 しがらみ

 自分の目標を定めたはずだった。

 何も知らない状況で守られてるだけはイヤだった。

 腕の中に抱いていたはずのジェムはいない。

 白い部屋。

 サイドテーブルに置かれた赤いリング。

 隔離部屋っぽい。


 お互いの関連性。

 鎮と俺。

 いつもそこにいて、ぽやっとしてる。

 俺が他と遊んでたらおとなしい子たちと喋りながらこっちを時々見てて、木の上に登っておりれない猫をあっさりおろしたり、泣いてる子を慰めたり、出来ないコトをあっさり見せつけられて悔しい思いをさせられる。

 大人によくわからない意地悪を言われてたらすぐに来てくれて、会話を邪魔してくれる。

 でも、鎮が優しかったり、気を配ったりは平等で。

 それがなお悔しかった。

 どこまで、イヤなコトをしたら特別(きらわれる)になれるのかと思っていろんなコトをした。

 いつの間にか、クセになっていた。

 しょんぼりさせたり、戸惑わせるコトが出来るのが嬉しかった。

 日本に来て気がついたコトは、伯父さんが鎮にばかり気を配るコト。

 愛想はイイが大人しい感じが強い鎮は年長者にも可愛がられていた。

 俺は同年代のやんちゃ組と走り回った。

 可愛がられてる鎮を見ていたくなかったから。

 寂しそうに手を伸ばそうとしてたところなんか見ていない。

 だって、あいつは僕じゃなくてもいいんだから。

 でも、拒絶し続ければ俺だけ特別だった。


 そして、あいつが示していた愛情は『言いつけ』だと笑われた。『それでもイイだろう?』って。


 それでも、双子で兄弟だろう?


 ちゃんとぶつければわかりあえる?


「無理じゃないかしら?」

「エルザ?」

 いつからいたんだろう?

「ずっと見てたわよ? ここで。お別れは言えなかったけど、いいわよね? ねぇ、お買物、何をしてたのかしら?」

 その言葉でジェムを強く意識する。

 幸せにしてやりたくて、可愛がって。

「配送にするのはいいんだけどね。連絡も忘れるぐらい動揺してたのかしら? 興奮?」


 気恥ずかしくなる。


「あのねぇ。人が受けるストレスはイヤなコトだけじゃないのよ? お薬にはその区別はできないのよ? ちゃんと一日のストレス量は自己管理してちょーだい」

「それ無理難題っ!」

「お姫様となに話したのか知らないけどね。チアキ。アリアをどうするつもりなの?」


 ため息。


「アリアはチアキの反応を見てるわ。あなたを見るのはあなたが自分を買った事を知ってるからよ?」

 そんなつもりは!

「あなたの認識はどうでもいいの。アリアをあまり不安にさせないで。自分の存在意義を崩させないで。期待に応えられないことがどんなにコワいことか、チアキには、わからないのかしら?」

 反論する間も与えず、くすりと笑う表情が「わからないでしょう?」というかのようで嫌な気分になる。






「だめよ」


 さらりとプラチナブロンドがゆれる。


「なんで、ここにいるんだ? 芹香」

 まだ明るいとは言え、夕焼けが近い時間だぞ? それに何がダメだって言うんだ?

「今、鎮兄にぶつけちゃダメなの」

 説明のない決定事項だけ言われてイラつく。

 広げた手が歩こうとした俺を遮る。

「鎮と向き合わなきゃいけないのは事実だろう?」

 俺は理解したいんだ。

 沈黙がある。

 意味もわからず言ってると思った。

 芹香はまだ小さくて、ちいさくて……。

()はダメよ。千秋兄のほうが大人でしょう?」



 は?



「鎮兄は進み始めたとこなの。千秋兄以上に確立されてない。ねぇ、鎮兄自身も理解してないことをどうやって分かり合うの?」


 せりか?


 迷いのない真っ直ぐな黄緑の瞳。

 鮮やかな赤のワンピースから伸びる細い手足。

 下ろされる腕、動きの一つ一つは芝居がかっている。

 見下しのポーズはどうかと思うんだ。芹香。


 しかたなさげに芹香が手を差し伸べる。

「知らずに切り捨てられるほうが楽なのよ。切り捨てるべきなのよ?」

 手は、とらない。

 芹香はまだ小学生でうろなにも小学校に上がるのにあわせて来日した。

「ばーか」

 抱き上げれば軽い。

 何が大事かなんか誰も言わない。

 大事なコトのあるだろう場所を指し示ても見つけられるとは限らない。

 怯えもする。そっとそばにいたりもする。

 ひとりに怯えるのは同じだった。

 そんなふうに思えるのは直樹さんと話した後だからだろうか?

「普通の幸せを追えるかも知れないなら、鎮兄には追ってほしいの」

 普通の?

「芹香、俺は?」

 わかっていながら聞く。

「だって返品されちゃうんだもん。うまく貰ってもらえると思ったのよ?」

 拗ねた声。

「でも、追いかけられるんなら普通に幸せを追うべきなのに。どう、して?」

 軽い。小さい。四年生になったばかりだ。

「俺はいーんだよ。そこに不幸は感じてないから」

「よくないわよ!」

 大きく暴れる芹香を取り落としそうになる。

「重いんだから暴れんな」

「女の子に失礼だわ!!」


 ぎゅっと抱きとめる。


「ひとりにしないから。芹香のそばにいてやるから」

 ひとりになろうとしなくていいんだ。

 お前がすべてを背負う必要はないんだ。

 お前がすべてを守ろうとする必要はないんだ。

 芹香だって話さないだろう。わかってる。ほの暗さもあるから知るな。知ろうとするなとエルザもミツルも突きつけ俺を拒絶する。

 俺が日の当たる道を歩けるようにと。

 芹香が望む普通はそうなんじゃないかと思う。

「俺が知ろうとしないほうがお前は嬉しいんだろう?」

 小さく頷き、期待の篭った瞳に笑う。

「ダメだよ。芹香。鎮にぶつけるなって言うんならお前が妥協しなきゃ」

 ぽんぽんと背中を叩く。

「……生意気だわ」

「知っていただろう?」

「かっこ悪いくせに」

「はいはい」

 不満そうだが芹香(いもうと)は拒否も否定もしない。

「知っていくことが最良とは限らないんだから!」

「知らなければ、判断できないだろう?」

 芹香が黙る。

 ほら。判断できない。

「情報が、なくったって判断しなくてはいけない時はあるわ。判断できないならそれまでのことだわ」

 少し、考える。

「俺は、芹香を妹だって思ってて、一人にしたくないな」

「それが正しいとは限らないんだから!」

「間違ってない。今、そう思う以上それは俺に正しくて、否定されることじゃないな」

「生意気だわ! ところで買い物荷物は?」

「配送にしてもらった。あいつら野菜食え!」

 振られたネタに買い物のブツを見た直樹さんの反応を思い出しそうになったが奥に封鎖。

「そうなのー?」

「そうだよ」

 芹香は俺にとって芹香(いもうと)であり、魔女(ひめ)たりえない。

 彼等の指す『お姫様』は『魔女』である『ティセリア』

「アプリコットジャムは大瓶?」

「あれはお前か!?」

 ふふんっと得意げ。

「太るぞ?」




 そう、動こうと思って、芹香が彼等の中でとても一人に見えて。独りになろうとしてるように見えて独りにしたくなかった。

「チアキは、ダメだと思うわ。アリアを受け入れられないから」

「ちが」

 あそこにあのままいちゃダメだと思って連れ出して、何もできない。

「フローリアにいわれなかった?」


「アリアの役割は鎮と同じ。鎮もアリアと同じコトがわからない。出来ないコトへのこわさは鎮も感じてたでしょうね。あなたはそれをどう扱ってたの?」


 そんなつもりもそんな風にも考えたコトはなかった。

 (あいつ)は何も言わなかった!

 そこにいるのが当たり前だった。


「傲慢だわ。そしてその傲慢さをお姫様にも向けるの?」

「な!?」

「ねぇ、このぐらいで潰れるなら引き返しなさい。知ろうとせず目を瞑りなさい。あなたは自由でいいのよ? 普通の幸せを追求すべきね」

 優しく甘く微笑まれる。

「でもね、ありがとう」

 え?

「おかげでお姫様がアリアに手を差し伸べてくれたわ。手を差し伸べた相手を振り切ったりするようなお姫様じゃないもの」

高原直樹さんちらり回想にお借りしました。



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