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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014春
515/823

5/30 赤のリング

「あのね、苦しそうだったの。かわいそうだったんだよ? チアキ?」


「ジェム……」


「もうね。苦しくないんだよ。痛く、ないんだよ」


 アリアの抱くジェムはピクリとも動かずただ雫を落とす。

 アリアのシンプルなベージュのワンピースが水を吸って変色している。

「アリアが見つけてあげたの」

 問い、詰めるべきなのに言葉が出ない。

 動かない。動けない。


 ころりと落ちる赤のリング。




「おい、千秋?」

 ひょこりと覗いた鎮がすぐ引っ込む。

「鎮兄、千秋兄がひどいんだからねー」

 芹香の声。さっき抱き上げた時にワンピースがずれて熊さんパンツをお披露目するハメになったのは本人が暴れたからだ。

「空、ちょっと、ごめん。芹香は早く帰ってろー。あ、かばん、もって帰ってろ」

「えー。いいけどー。空ねぇ、放置する気ー?」

 聞こえてくる会話が途切れぎみに聞こえる。

 そんなに遠いわけじゃないのに。

 ああ。ダメだ。


 眠い。


「芹香」

「千秋兄?」

 まだ、声は出る。

「アリアがちょっと濡れちゃってるから、ウチ連れて帰ってシャワー浴びさせて」

 アリアからジェムを抜き取る。濡れて温度のない体。少しすったのか汚れぎみの尻尾。

 芹香や空ねぇがこっちに様子を見に来る前に鎮の方へ押しやる。

 濡れちゃったのと笑うアリア。

 仕方ないわねと偉そうな芹香に引かれていく。


 わかってる。だめなことなんだと教えなきゃいけなかったんだって。


 ソレなのに褒めて欲しそうな笑顔で伺われてどうしたらいいかわからなくなった。


 軽く肩を押されて、ジェムを抱く形で座り込む。

 体調を崩しやすくて神経質気味でご飯をもらう相手は選んでた。

 隆維が体調を崩してイライラする涼維になだめるように寄り添って、遊んでと催促してた。

 ゼリーと遊んでると寝床からじっとこっちを見てた。出てくればいいのに呼ぶまでこなくて。


 ばしゃり


 水音が聞こえた。


 顔を上げれば鎮が海に踏み込んでいた。


「……しずめ?」


「鎮くん? 千秋君?」


 おずおずとケンカでも予想してたのか空ねぇがそっと覗き込んでる? 声が近い?

 ここは少し、影になってるポイントだから。

「あった」

 かかげあげたのは赤いリング。夕焼けの光をはねるあか。

 薄闇がかる中で、光る赤いリング。

「ちあきくん?」

 たぶん、空ねぇはそれがどういう使われ方をしていたのか覚えていたんだろう。

 怪訝そうな声。足音が近づく。


 直樹さんの言葉が、向き合うための心が、芹香との会話がざわめく。


「ああ、かっこわるいなぁ」


「千秋?」


 ぼんやりと遠く聞こえるたぶん、鎮の声。


 まぶたが落ちる。音が途切れる。

 

「だめ、眠い」


「ちょ!」




◆◇◆


「ごめん。空、今日はちゃんと送れない」

 ふるふると首を横に振りながら心配そうな眼差しを寝落ちた千秋におくる。

 影になっているけれど、動かない毛のかたまりは見えてるんだろうし。

 苦しかったのかなぁ?

「千秋くん、大丈夫かな」

 心配そうな不安そうな声。

「たぶん、今だけだから」

 千秋は切り替えが早いから。たぶん、薬の影響だろうし。

 どこかに飛び出さない分、よかったのかなぁ?


 ふと、困る。



 どうやって、連れて帰ろう?

 でも、それよりも、

「空、暗くなる前に帰らなきゃ、誰かに迎えに来てもらえるように連絡入れる?」


『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

より、高原直樹さん(お名前のみ


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

より青空空さん

お借りいたしました。

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