5/30千秋買い物と……兄弟対決のすすめ?
買い物メモ片手にスーパーまで。
何しろミツルコンビ、まぁ他のメンバーもだが、レシートをもって帰ってこない。
レシートが欲しければ俺が買い物に行けばいいだろうという話に落ち着かれた。むかつく。
買い物メモには下線をくっきり引いて『絶対このメーカー!!』という指示が書いてあったり、『新作アイス希望』とか、『食パンは六枚切り』『スナックよりオールドタイプのビスケット』『冷凍焼きそば・チーズ』『呑むから卵』とか書いてあって、チーズ味の焼きそばが売り出されてるのかと突っ込みたい。そして卵をマジで呑むのか。
というか、こいつら野菜を食え、野菜を。
「ミルクスプレッドとチョコスプレッド、食パンは五枚切りと六枚切り、メーカーは……」
誰か荷物持ちを連れてくるんだった。
どっちにしろ武闘派(何せメイン仕事はボディーガードだ)の人間が揃うとどこに消えるのかってくらい食料が消える。
しかもメインは肉やらビスケットやらにレトルト系中心。携帯できるゼリー系飲料やチーズ。栄養ドリンク。
買い物終盤にワン切りすれば迎えが来ることにはなってるとは言え、カートに乗ったふたつの籠に大量の食品。それでも野菜はナシ。
そして、選び終えた俺が事務所で座ってるのは万引きしようとしたわけじゃないとだけ言っておく。
さてレジに行こうってところを掴まれたのだ。直樹さんに肩を。
ああ、まわりの視線が痛かった。
正直なところ、直樹さんに声をかけられるとは思ってなかった。
父親との不仲や、蒼華ちゃんの保護者をしたりで忙しくしてるし、地域連携にも大きく貢献したりしてるから忙しさハンパないはずの人だ。
めがねがきらりと光って萎縮しそうになる。
「最近、どうなんだ?」
まぁ、何度か強制的に『ごめんなさい』させられたあのころの記憶が騒ぐんだろう。
「んー、ぼちぼち? コネのあるバイト先でイラつくことはあるけど、それなりかなぁ」
ああ、なんか、しばしの沈黙空間。
なんだろう? このさっさと吐け的空気の圧はさ。
「なんかさー、わっかんなくてさ。俺や鎮のせいでもないことで鎮や俺が罪悪感を抱えなきゃいけないことってないと思うんだ。そのくせ、あいつらは知ってて俺は知らないんだ。馬鹿にしてるにもほどがあると思う。抱えなくていいコトをひとりで抱え込んで知られたくないのか知らせたくないのか思わせぶりでさ。ケンカを誘ってみても、かわされるか、謝られるかで、僕ばっかり空回る」
冷静に冷静にと自分に言い聞かせる。テンション上げすぎかっこ悪い。
「空ねぇっていう恋人できて、いい感じだって言うのに見えにくいトコで惑うなよ。うざってぇ! あ、直樹さん、騒ぐつもりじゃ」
こほんと呼吸を整える。
ああ、気まずいったら。
「あ~。もう。かっこ悪い。えっと、マジ騒ぐ気じゃなかったんだ、よ?」
少しはすっきりしたんだけどさ。
素直にお礼を言うって気恥ずかしい。
だって直樹さん、相手だもんなー。
コトンと置かれる缶ジュース二本。
はい?
「おごりだ」
首を傾げつつ少し喉を潤す。
「どうも千秋が大分詰まってそうだと、麻衣子に泣きつかれた。相変わらず良く泣く奴だ」
直樹さん、ソレ直樹さん相手だからね。
「弟分を本気で心配するのは立派だが、もう少し受験生としての危機感は持ってもらいたいもんだな」
え、弟分なの?
麻衣子ちゃん!? それとも直樹さんの認識に問題が!?
動揺してるうちに直樹さんが続ける。
「実際見てみたら、正直挙動が万引き犯のそれと変わらなかった。他の店員にも目をつけられてたんだぞ。お前のポーズがあそこまで崩れているのも久しぶりだな。仔犬の件、以来か?」
きょ、挙動不審!?
まぁ、イラついてたし、むかついてたけど。
仔犬、ぁあ。小学校の時の。サマンサちゃんが嫌がったんだよな。
飼い主を見つけるために短期間のつもりだった。
学校から帰ったら血のついた毛皮が少しだけ残っていた。
あ、思い出すと眠気でくらっとする。
「おい?」
直樹さんの声。
「ん、ちょっと薬の影響。ちゃんと医師処方だから」大丈夫。
それでも怪訝そうな視線は外れない。
居心地が悪くてちょっと視線を外す。
「ちょっと不眠と食欲不振が続いてただけ。初期治療ができるなら影響も少ないんだって。ただちょっと眠くなりやすいんだ」
ぁ。視線が痛い。
こんな薬が必要だって判断されること自体がイヤだし悔しいしむかつくよ?
「お前はどうでもいい相手には好き勝手してるくせに、自分の大事な相手に遠慮しすぎなんだよ」
ため息と共に諭すような切り込むような相変わらずの物言い。
「遠慮、なのかなぁ」
そこにいるのが普通だったんだ。それが嘘でできてるなんて思ってなかったんだ。嫌われてるって思われてるなんて思わなかったんだ。
つい耽ってしまった俺に直樹さんがしかたなさげに息を吐く。逸らすのが許されないようなキツイ視線。いや、直樹さん、ちょっと怖いんだけど。
「遠慮なんて言い方が優しすぎたか?」
え? どこに優しさ成分が含まれていると?
「ぶっちゃけ言えば、相手の内面に踏み込むのにビビってるんだよ。だから鎮相手にはそこに踏み込む前に降参されて終わってる。お前、相手に非を認めさせたら勝ちだと勘違いしてないか? それは戦争だ」
え?
「喧嘩ちゅうのはもっとバカバカしいもんで、相手の本音を知るためのぶつけ合いなんだ。一方的に自分や相手の非を認めてもしゃあないんだよ」
え? しかたないの?
あれ? やっぱり鎮と根本的にケンカが成り立ってない?
「うちにこの春来たバカ娘知ってるか?」
話題はうろ中の一年生蒼華ちゃん。千歳ちゃんがつるんでるらしいから知っている。
「あいつ何にも言わずにうろなに転がり込んできやがって、ぶっ飛ばして怒鳴りつけてやったら、床に頭を擦りつけながら『直樹さん、助けてください』だぜ」
え?
女の子ぶっ飛ばすのはどうかと?
いや、どうでもいい相手ならともかく、直樹さんそう言うタイプじゃないよね?
何かに気がついたかのように一度言葉を切る直樹さん。
「あん? 女の子を殴るなって? あいつが物理的に否定されてもそれでも抗う覚悟があるか試したんだよ」
うわぁ、直樹さん相変わらずだぁ。
「ガキが駄々こねたって無理やり親のところに送り返されて普通は終わりだ。それで納得できるなら本人にとっても親元に戻るほうが幸せだからな。でもショックを受けてそれでも諦めずにどうにかしちまうタマなら、そんなことしたってまた舞い戻ってくるだけだ。それならこっちが折れてやって頑張らせた方がいい。こっちだって受け入れるからには相応の責任があるし、責任を負うだけの価値があるのか見定める義務と権利があるのさ」
責任を負う価値と覚悟か。
おじさんが、自分で決めろっていうのと似てるのかもなぁ。
意思を見せるなら手を貸す感じ?
「一回り上の従兄弟に土下座する女子中学生なんて、本当に大概無茶苦茶だけど、自分の大切なことのために自分が本気で信じられる相手に対しては全身全霊で甘えてきてやがる。どうしようもないバカだが、だからこそこっちだってそれなりの態度で向かい合うハメになっちまうんだよ」
ああ、そこにある強い想い。譲れない部分。
じわりと広がる眠気からくるキツイめまい。
「だからお前も鎮に遠慮なしの避けきれないくらいの全力でぶつかってやらなきゃ、マジにさせられないよ。傷つけたって傷つけられたって構わないくらい、あいつはお前にとって大事な存在だろ?」
言い聞かせる口調。その言葉は納得できるんだ。
そう、わかってる。わかってるんだ。
拳を握りこむ。
ソレができるなら。
「とどかねぇんだよ直樹さん。傷つけることを厭わずにいけば、殺されることすら厭わず受け入れそうでそこを、望んでそうで怖いんだよ」
だからこそ、どうしたらいいのかわからないんだ。
俺に、鎮がわかれないんだ。
「……僕が、傷つけてるはずなのに、鎮が『ごめん』っていうんだ。自分が悪いって、僕は悪くないって。ふざけんなよ。でも、どうしたら届くのかがわからないんだ」
くしゃりと髪に触れられ混ぜられる感触。
え?
「全く、普通の相手なら危機感感じて、リアクション起こすってのにあの全方向ヘタレは……」
ぜんほうこうへたれ……
「ああいう自己否定から自分が始まっている奴はただ正しいか間違っているかで攻めても『当然自分が間違っている』で終わっちまうんだよな。相手を肯定しているように見えて、そうやって自分が勝負のラインに立たないこと自体が相手をハナから拒否しているに等しいと分かれっちゅうのに。なんであんな感じになったのかも、どこかで考えさせてやらねんといけないが、まずはそこは置いとこう。おい、今一番あいつを揺さぶれるとすると何だ?」
「やっぱり空ねぇ? たぶん、そこな気がする」
ああ、鎮に俺、否定されてんだ?
額をピンッと弾かれる。けっこー痛いんだけど直樹さん。
「だからそんな部分に沈んでんじゃねえよ、この隠れヘタレ!」
隠れへたれ!?
「鎮は結果的にお前をぞんざいに扱ってたこと自体気づいてないんだよ。それくらい基本的にアホでヘタレだから全方向ヘタレだっつたんだ。その癖、最後の最後になってから冷徹に割り切りやがるから逆に面倒くせえ! 問題がこじれる前に動けっての!! 一方でお前は基本冷静に振る舞えるくせに大事な所でヘタレやがって! 決めるべき時に揺らいでたら遅いんだよ!! お前ら相互補完とかいう言葉を知らんのか!?」
「……知ってたらこんなこじれ方してねぇよ」
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
より直樹さん・蒼華ちゃんお借りいたしました。
YLさま協力感謝v




