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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014春
511/823

5/30 回想に耽りつつ

バイト先に向かいつつ三月末を振り返る

 笑われてるのがわかる。

 今、目の前にいるのはマンディ姉さん。

 セシリアママと共に母親としての愛情を注いでくれた人。


「かわいそうなチアキ」


「何も知らないのはチアキが悪いんじゃないのにね」


「誰もがチアキは知らなくてイイって目隠ししちゃうだけなのにね」


 伸びてきた手が頬を掠める。


「本当はチアキもシーも等しく不用品だったのにね。バートが欲しがったから変わっちゃった。欲しがられなければ同じだったのにね。消耗品であるコトに当たり前でいられたのにね」

 優しく頬を撫でられる。

「ねえさん」

「チアキはイイコね。わけのわからない場所で慣れない生活と生き方を強いられて。嫌だったでしょう? 不安だったでしょう?」

 思い詰めた視線と優しく撫でてくる手。途切れつつも紡がれる言葉。

「ねえさんのところに帰ってきてくれる?」



 問われて、首を横に振る。



 不安はあった。不満はあった。

 それでもあそこで過ごしたコトに後悔はないし、あの場所がいろんな意味で居場所になっていた。

 今は、たぶん、帰らなくても誰も何とも思わないかなと思わなくもないけれど、同時によぎるのは『逃げんじゃない!』と怒鳴る(あみ)ねぇの姿。(ヤられそうだな。想像なのに)


「なぜ?」


 掴まれた髪が痛い。


「必要とされるように振る舞ったのに。役に立ってきたのに……。どうして認めてくれないの。なんだってしたのに。どうして。どうしてどうして? 認めてもらえるようにがんばったわ。パッと現れた子供がどうして私より認められるの?」


貴方(ちあき)も、私をいらないの? ぁあ! 死なせてよ! 死にたくないわ」


「ねぇ……。助けてちょうだい?」


 縋られて、ひっかかれて、乱れる(はは)を見て正しく反応ができない。

 ふいに、ねえさんがびくんと体を強張らせ、弛緩する。

「ね、ねえさん?」


「眠っているだけよ?」

 顔をあげれば、黒髪の女。

「花」

「フローリアよ」

 彼女はにこやかに名乗る。覚えてないのと言うかのように。

 聞きながら、ねえさんに掛けられている布団をそっとなおす。

 フローリア、ね。

「ひどいわね」

 不意打ちのように聞こえた言葉に神経が引っかかれたような気分になる。気に入らない。

「……なにが?」

「不用品だなんて」

「母さんにとってはそうだろうからね。でも、ねえさんやバート兄さんはそう扱ってきたコトはないよ」

 くすくす笑われるのが不愉快だ。

「怒ってる? でもマンディをいらないって言ったのはシズメよ?」



「……黙れ。俺はお前なんか知らない。お前の言葉に左右される理由はないんだよ。花じゃないフローリアならそれこそ初対面。お前なんかどーでもいいんだよ」


「あのね、覚えておきなさいな。マンディはティセリアが嫌いよ。シズメ、もアヤカもね。チアキはどっちの味方?」

 味方?

 くだらない。

「関係ない」

「え?」

「誰の味方? 関係ないよ。好きなように動くんだよ。その時に誰の味方かなんか、関係ないだろう? 誰が、俺の味方かは多少関係あるかもしれないけどさ。誰かなんか知らない。だからさ、フローリア。お前は敵、だよね?」

 ねえさんは敵じゃない。

 ねえさんが誰を嫌いでも関係ない。

「じゃあ、シズメも敵?」

「鎮が敵? バカなことを言うよな。鎮は敵に回らないよ。もし、そう行動を取るとしたらお前が何かするんだろう?」

 鎮と、まともに喧嘩できるのならそれは少し嬉しい。

 たとえ、それが殺し合いになったとしても。

 ただ、受け入れられる。ただ、かわされる。

 そんな状況よりずっといい。

 でも、本気で鎮は抵抗してくれるんだろうか?

「あら、私なの?」

「鎮が自分の意志で『どうしても譲れない』を通すなら、それは見てみたいさ」

「私は積極的に動く敵ではないわ。シズメはチアキもティセリアも守るものに入れている。シズメに喜んでほしいだけだわ。彼に傷ついてほしくないだけ。だから、戻ってほしいの」

「戻ったらねえさんの敵意にさらされるだろう?」

「内側にいれば大丈夫。でも、たぶん、何かあったのよね。私たちの常識は外と大きくずれている。私はそれを知っている。シズメも知っているけど、わかってはいないの」

 傷ついてほしくない。


 苛立たしい。


 どうせなら完全に敵対すればいいのにそこまでもいかない。

 敵でも味方でもなく、優しさすらこちらにも傾ける。

 わずらわしい。





 帰国前にグリフ兄のところに寄るのは外せない。

 その時に外に出たことがないといったアリアを連れ出した。

 グリフ兄は驚いたけれど、アリアの日本行きの準備を整えてくれた。

 その行動に驚いた。

 許されることに。




 春休みの出来事だった。

 過ぎた出来事だ。


 敵対関係とかってわからないなと思う。

 ただ、情報は拾いたくて、グリフ兄の紹介の仕事に入ってみた。

 鎮に喧嘩もふっかけてみたり、でもうまくいかなくて気にいらない。

 相談しようかと思ってもアテはそれぞれに忙しそうで、どうしようかなと悩むばかりでうざったい。


 明日にでも、

「外で女の子でも引っ掛けに行くかなぁ」


 気分転換も大事だよね。


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