5/25 デート当日3
のんびりしたペースで河川敷を歩く。
普段なら帰り道になるからいつもとは逆だ。
周囲に興味はあるらしいがトロはぴたりと空の横についている。
昨日までの雨で足元やスカートが汚れるんじゃないかと少し心配になるけれど、空は気にした風もなく、トロと、途中わいてきたたぬきを相手にしている。
「たぬき、重くね?」
たぬきは黒猫だ。
猫なのにたぬきとはこれいかに?
まぁ、犬の名前もトロだしなぁ。
そしてたぬきの現在地は空の肩。空はそっとたぬきに手を添えてるので手がつなげない。
「大丈夫だよ」
飲食店に宿泊施設とペットの飼える環境とはいえない空は楽しそうだ。
ウチも最近毛むくじゃらが増えたけど、それまではサマンサちゃんだけだったしな。
見上げた空には雲が散り、いい一日になりそうだと思う。
手はつなげないのはもどかしいけれど、空の機嫌が直ったんならいいかなとも思う。
歩く途中、街路樹の緑や家の前に飾られた鉢植え。山吹の黄色、まだ固いアジサイの蕾。オレンジのポピー。そろそろ終わりかけのツツジの白や赤。
春は花の季節だと思う。
中央公園のベンチでトロとたぬきに水をあげつつ、お弁当を広げる。
散歩グッズに猫おやつも入ってたのはご愛嬌だろうか?
昼下がりの公園は子供の高い声が響いてて、久しぶりの晴れを楽しんでいるようだった。
適度に乾いてたからレジャーシートはいらなかったなと思いつつ出すべきは半解けのスポーツドリンク? と思ってたら空が水筒からお茶を入れていた。
「食べよ」
空がにっこりとお弁当準備を終える。幸いにもつぶれることがなかったお弁当はおにぎりや卵焼きの和食系だった。振り回したからちょっと心配だったんだよな。
「んー。鮭♪」
潰れててもオイシイだろうけど、きっと空ががっかりするだろうからよかったと思う。
じりじり狙ってくる猫をかわしつつ鮭にぎり堪能。
にこにこしてる空を見てると幸せな気分になる。
いつもぶらぶら行ってる道ではあるけれど、犬猫のペースもあるしなぁ。時々戻ったりもしたしな。
「足、疲れてね?」
お茶を飲みながらスカートの裾に泥はねしてないかとかもちょっと確認する。
朝のウチは少し乾いてないところもあったから。
たわいない会話。そっと二人でいる時間。
空のいつもの鞄に手を伸ばす。
蒼い羽のピアス。
そっと触る。
「鎮、くん?」
不思議そうな空の声。
触れる違和感。
確信に楽しくなる。
羽からするりと落ちる緑のクロス。
「コレも、お揃いだな」
芹香が何を考えたのかはわからない。
それでも、悪くないか。と思う。
恥ずかしそうな空を見ることができるのは嬉しい。
「う、うん。そうだね」
上ずりぎみの空の声。鞄を確認するために乗り出した状況のまま、空を見上げる。
うん。ちょっと新鮮?
「商店街寄ってなんか買い食う?」
スイーツとか。甘い物とか。甘味とか。
くすくす笑う空。
「ひとつだけね」
ふわりと翻るすそが、笑顔が、ゆれる髪が、その声が。
眩しくて甘い。
「日差し、強くなってきたけど、羽織るものとかある? 一応持ってきたけど暑いかな?」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
空ちゃん継続お借り中。




