5/25 デート当日2
ふわりと広がる長いワンピース。
肩にかけられたいつもの小さなバッグ。
だからなのか、普段もっていない網籠が少し大きく見える。
いつもより小柄に見えてかわいさが際立つ。
「おはよ。空。今日もかわいいー」
頬を染める姿がかわいい。
ほぼ毎回言ってるのに空は頬を染めて照れる。
ああ。抱きしめてぇ。
「少し時間早いけど、頼んで、も?」
ためらうように聞こえる三春さんの声。
まぁ、この人はそういう喋り方が主体なだけだけど。中身きっついし。
「ぁ。はい」
「ん。最近、叔父も行方不明でね」
いーんっすか。行方不明で。全然心配してねぇよな?
「じゃ、よろしく。ちょっと掃除が大変でね」
手渡される犬のお散歩グッズ。
トロがふんふんと空の匂いをかいでいる。
「トロ、迷惑をかけないように」
三春さんがトロの頭を撫でながら言い聞かす。
わぁうとお利口な返事。
大丈夫そうと判断した三春さんは迷いなくスケッチブックを横に置いていたカバンにしまいこみ、さっさと自分の目的に動く。
砂浜。波の音。二人っきり。
黒い髪が風に揺れている。
「わぁう!」
犬が自分もいると自己主張をする。
「空、籠もつよ。お弁当? 楽しみー」
見惚れるのを中断して空から籠を受け取る。
嬉しそうに笑う空を見る。
「鎮くん」
呼ばれて、空を見ると俯いたり顔を上げたり、もじもじと恥ずかしそうな表情。
そっと伸びてきた手がネクタイを直す。
あー、雑なしめ方してたからなぁ。
ぱちん
何かを留める音に見下ろす。
俯きぎみの空がゆっくりした動きで見上げてくる。
だから、上目遣いは反則だって。
「ペンダントと似てるのがあったの。一緒に付けたら……お、お揃いみたい、かな? ……だめ?」
囁かれる言葉。
ネクタイに留められた三日月のタイピン。
言われてる言葉の内容がゆっくりと理解できる。
言葉が出ない。
空の表情が心配そうに不安そうに翳ってるのにちょっと気がつかなくて、表情を見て驚いたんだけど、それよりも
「空。大好き」
抱きしめて目元にキスをしていた。
照れてトロを撫でる空の横で籠を見る。
「おべんと大丈夫かな?」
耳たぶにキスしようとしたら慌てて払われたんだよな~。
だからかしてちょっと今視線を合わせてくれない。
「河川敷で走らせようと思ってるからさ、そろそろ行こうか?」
トロのリードを持つのは空。
その空の手をとって荷物を持って歩き出す。
「今日さ、いい天気になって良かったよなー」
こくんと頷く空。結ってある髪がかわいい後ろ頭。
「まだ怒ってる?」
覗きこもうとしたらそっと逸らされる。
「怒ってないよ」
それでも視線は逸らされる。
耳まで赤い。
「ねぇ、空」
空がちらちらと俺を見る。
「耳たぶ食べていい?」
ぽんっと赤くなる空。
「だめぇえ」
ちょっと奇声みたいなのをあげてあわてる空。
可愛くて仕方ないんだけど?
狙ってる?




