5/23 ほーかごデート相合傘
5/23はなんかキスの日らしいですよ?
今日は少し早く終わったし、雨だったのもあるからそっと無限回廊のドアを開ける。
いまだぱらつく雨のせいか客は少なく、それも奥のカウンターの方にいるくらい。
「鎮くん」
先に空に声をかけられる。
仕事中に邪魔するみたいだけど、まぁ、うん。お客の入り少ないから邪魔にならないよ、な。
「そ、……」
呼びかけようとしたら、
「空ーーー! 生意気に暴力をふるうのだーーー!!」
飛んでくる黒いブツ。
今回は阻止成功。
『るぅるぅ君』は器用に膨れると木野江んとこ、『うろや別館』の確か陽光さんのところへふらふらと向かう。
手触りが不可思議でつい手を見てしまう。
「空、大丈夫?」
「うん」
「静かにしてるからお客増えるまで居ていい?」
邪魔はしたくない。
途中で陽光さんは『そろそろ帰る』と消え、俺は邪魔しないように『るぅるぅ君』と向き合う。
「落し物には注意な」
「わかったのだ! こないだもありがとうなのだ!」
さっきも陽光さんとかなり喋りこんでいたし、手触り謎だし、浮いてるし。渚ちゃんの技術はどこまで進むんだろう?
「お店だからも少し静かにな。でも渚ちゃんも上手く作れて嬉しいだろうなぁ」
きらりと『るぅるぅ君』の赤い瞳がきらめく。マジ生きてるみてぇ。
「るぅるぅも渚の技術はすごいうと思うのだ。とても優れた繊細な技術のなせる業なのだ」
お前わかるのか。みたいに言われて面白い。
「るぅるぅ君は製作者ちゃんが好きなんだな」
「るぅるぅは渚が好きだぞ。渚の作り上げる装飾品は美しく繊細でよい音色を持っているのだ」
るぅるぅ君は渚ちゃんをべた褒めだった。
空がにこにこ笑っている。
途中でるぅるぅもふらりと消えた。店長さんは笑って大丈夫、って言ってたけどさ。
また鞄、落とさねぇ?
降ったりやんだりの帰り道。
「日曜、晴れるかなぁ。三春さんが篭り気味でトロが運動不足なんだってさー。大型犬だから散歩不足もアレだし、でも一緒に散歩できる相手選ぶらしくってさ。あ。空だったら大丈夫だと思うし」
基本、俺が喋りかけてるか、黙って歩いてるかなんだけどさ、
「俺ばっか、決めちゃってない?」
いや、じゃない?
覗き込めば、不安を払うような笑顔と『大丈夫』とばかりに優しい手。
「空」
「なぁに?」
「少し持って」ときょとりとする空に鞄を預ける。
「髪に水滴」
「雨だもの」
くすくす笑いながら顔を上げる空。
「うん。口実と、角度は最高だよね?」
ぱらり傘を打つ雨が立てる水音。
大きめの臙脂色の雨傘。
「ちゃんと、誰も見えなかったと思うよ?」
俺だけが見る、空の表情。
「大好きだよ。雨が降ってもさ、空と過せるんならきっと嬉しい。でさー、散歩セットは別として何がいると思う?」
鞄をそっと取り返す。
耳元で、囁いてみよう。
「今日はさ、キスの日なんだって。ねぇ、空からは?」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より「無限回廊」青空空ちゃん。
お借りいたしました。




