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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014春
494/823

5/21 今日も雨



「噛んでんじゃねぇ!」

 少し大きめの声に逸美がびくりと体を竦ませる。

 長身茶髪の青年がこっちを見てにへっと笑う。

「お。お帰り逸美、送り迎え感謝だよ千秋君」

 ぐいぐい隠すように何か黒い物をおしこむおにいさん。溢れてるけど。

陽光ひかる義兄さん。どう、したの?」

「いや、なんでもないよ。がっこ、どーだった?」

 そそっと後ろに回される手。あやしい。

「ん。いつもどおり」

「そっか。そりゃなによりだ」

 軽い調子で言いつつ雨の中傘も持たない状態で数歩下がり、「むこうのカタズケあるから、おやつあるはずだし二人で食べてればいいさ」とむちゃくちゃ子ども扱いした挙句、走り去った。

「なにあれ?」

「義兄さん。時々不思議さんだから」

 そんなことを言う逸美を見る。

「類は友を、って奴?」

「それ、千秋を友達と思ってる僕に言う?」

「んー。俺達はほら補い合う関係?」

「今日もバイト?」

「うん。教えてくれるって言うエルザさんが来日したからね。いきなりひっぱたかれたけど」

 お茶は飲んでいくでしょという逸美の促しに従って旅館の従業員寮に入り込む。

「ひっぱたかれたんだ」

「ん。彼女に無断でその妹を連れ出したのは本当だから、甘んじて受けた」

 あ、その眼差しやめて。

 何やってんのって責める眼差し。チョー心痛いから。

 眠る赤ん坊がいて、そのそばに張り付いてるのははやとくん。

「中学校、慣れた?」

「いちおう。なんとかなってると、思う」

 荷物をおいてきた逸美がおやつを差し出す。

 アップルパイカフェオレ付き。

「陽光義兄さんりんご好きでさ、よく作ってる」

「ふぅん」

「他の料理は上達しないって怒られてるけどね」

 不審そうな様子に気がついたのか、言葉が足される。

「好きな物には力が入るんだって。あんまり上達しないけど、下準備は役にたってるらしいからあんまり問題にはなってないみたい」

 姉さんの惚れた人だしねと笑う。

「好きな相手とうまくいってんのは良いことだよな」

「うん」

 頷いて笑う逸美は少し遠くを見る。

 結局のところ紬ちゃんとはうまくいってない。

 それでも、今逸美はちゃんと学校に来てるし、行けそうな進学先も考えてるし、最終うまくいくような気もする。

 下から覗き込むような動きで俺をみてくる逸美。

「大丈夫?」

「なにが?」

「少し、食べるの苦手になってたろ?」

 それだけ言ってさっと下を向く。

 言ってはイケナイことを言ったかのようにきょどる逸美。

「ん~。たぶん、大丈夫だよ。美味しいとは思えないけど、たぶん、少しはマシになったと思うよ」

 たぶんね。

 さくりとフォークがとおる。

 シナモンとりんご。甘いのはわかる。

 逸美はちびちびカフェオレを飲みながら様子を見てくる。

「そーいううかがわれ方は気に入らないんだけど?」

「ごめんね。やっぱり、うん。心配、なんだ。関心持たないほうがいい?」

「その聞き方は卑怯だ。不満があるならはっきりと。前から言ってるだろ」

「僕じゃ、力になれない?」

 静かに見られて苦笑する。

「そんなに頼りなさげにブレてる?」

 小さく頷いてそっと視線を逸らす逸美。

 強引に揺さぶってくるのは健。

 頭が冷えたころにかき混ぜるのが逸美。

 二人とも仕方ないなと思う。

「ごちそうさま。バイト行くから」

「ん。がんばってね。また明日」

 心配はするし、言ってみたりはするけど、特に追求はない。



「ああ。また明日。……ありがとな」




「あれ? もういくの? 雨だし送っていこうか? 車出すよ?」

「いえ。大丈夫です」

 あれ? 袖ぼろけてないか?

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