5/9 友達として
「追いついた〜。ったく、あそこまで言うコトねぇだろ?」
公園そばで捕まえて病院よりの空きベンチに誘い込む。
ちょっと嫌そうな顔はしてたけど、聞いてやらん。聞くのは話だけだ。
「え? トドメが刺しそびれてる気がしてるからもう一度ちゃんと話さなきゃいけないのかもって思うと気が重いんだよね」
千歳ちゃんが傷つくコトを心配して俺が言ったと思ったらしい涼維がそういう言い方をする。
「いやぁ。千歳ちゃんじゃなくてさ。涼維がキツいだろ?」
「ん? なにが?」
自分のコトを危惧されたとは思ってなかったらしい涼維は不思議そう。
でも傷つけるためにだしたあのセリフはきっと涼維自身を傷つける言葉だと思う。
知っていたとしても音として耳に届くコトってキツいと思うから。
「いや、だってさぁ。家庭環境って色々だとは思うけど、まぁ大なり小なり親の愛って信じときたいもんじゃね?」
「親の愛ねぇ。……俺、一番古い記憶、かーさんが隆維を水に沈めてるトコだからさ。アレが愛なら、愛なんかいらない」
「ちょっ!?」
オレがトラウマになるじゃん!
なんなんだよ。その情報!?
「ウチさ〜きっとと〜さん達からしてついてないんだろ〜って思うよ? だから、とーさんもちゃんと愛し方なんかわからないんだ。だから、俺も隆維以外の愛し方なんかわからない。だから、だからさ。隆維が傷つくのが嫌なんだ。隆維は平気じゃないんだ。鎮兄もね。それに、千歳ちゃんが求めてるコトって俺たち兄弟が応えてあげれないコトだしね」
「応えられねぇの?」
あくまで軽く言い放つ言葉に機械的に反応を返す。
半分くらい重過ぎる話題で『なに言ってんの涼維ちゃん』と突っ込みたい。
わたつくオレを見て面白そうに笑うんじゃない。面白くねぇよ?
「とーさん&あーやおばさんと俺たちとの中に見えない亀裂が増えるよ。無自覚無意識で家庭壊す気かって言いたいよね」
「ぇ!?」
小さく添えられるため息に仕方ない感が溢れてる。
「ウチさ。まずとーさんとあーやおばさんがさ、自分達を捨てた相手受け入れる気ないしさー。とーさんはかろうじて不干渉なら嫌悪感は抑えますって感じだし、あーやおばさんは完全拒否ね。俺らが受け入れようものなら、思いっきり距離取られそう。ただでさえ距離はかられてんのに笑えるよね。それなのに無神経にキッツいマジきついやめてほしい。隆維が何とかしようってとってるバランスが崩れんだよ。それで崩れるようなバランス取るだけ無駄だって言いたいのかよ? っざけんな? 知らないんだからってちゃんと情報あげたけど、アレかよ。家族のバランス崩していいって考えるんならちゃんとちゃんとトドメ刺さなきゃダメだよな?」
一つ息を整える。
イヤ、情報一気に流し込まれてパンクなんだけど?
それ狙ってる? ちくしょう。
「ごめん。祥晴にぶつけるつもりじゃなかった。もしよければ忘れて?」
困ったような後悔するような笑顔。完全に聞いたコトを記憶できるほどの出来はない。でもな。
「誰かに言ったりはしない。内容の細かいトコは忘れちまうっつーか覚えてられない。でもな、なにもできねぇよ? でもな、でも、友達だろ?」
近くにいるコトはできるぞ?
一人にしないぞ?
「心の問題なんて重過ぎるけどさ。解決すんのは涼維だけどよ。オレは友達だと思ってるから、あんま一人で思い詰めんなよ?」
特に何かを見てたわけじゃなさそうな青い目が俺を映して少し緩んだ。
「ありがと。祥晴」
一瞬視線を泳がせてから、オレを見て礼を言う涼維。
涙に潤んだ瞳を向けてやわらかな笑顔でってなんか反則じゃねぇか?
え?
オレがバカなの?
「どういたしまして? 家帰って大丈夫なのか?」
「ん?」
「いや、ほら、おばさん」
「ああ。とーさんとかーさん今別れてるし、かーさんは帰国してるから」
「……どこまでマジ?」
「ナイショ」




