5/5 料理部三年駄弁り中。
「さぁ。吐くがいい」
麻衣子ちゃんが千秋君に指を突きつけ、千秋君は嫌そうにその指を見ている。
「麻衣ちゃん人を指差すのはよくない」
諭されても麻衣子ちゃんは指を下ろさない。
「その前に吐くのが先だぁあ。部活サボりは千歩譲っていいとしよう」
千歩なんだ。
「吐けって何を?」
心持ち疲れた口調で聞き返す千秋君にスナックを摘みながら菊花ちゃんが笑う。
「決まってるでしょー。最近の異常事態についてに」
「異常事態?」
わからないって表情で聞き返す千秋君に菊花ちゃんと麻衣子ちゃんは深く頷く。千秋君はそれを見つつ、引きつった表情。
「だからさ、部活に来ないのは最初の約束だから別にいいんだけどさぁ。授業中でも時々眠そうにしてるっぽいし、三年になった今年にバイト始めたりで、まこっちゃんもみっちーも心配してるっぽいんだからね! まぁ、かぶってる猫をどっかに何匹か落としてきてるのはいいことだと思うけど! ここで我らを納得させれなければ!」
流れるように麻衣子ちゃんが言い募る。
とりあえず、先生たちが心配してるっぽいのは本当らしいしね。中学からのせてた猫が最近減ってる。とは麻衣子ちゃん菊花ちゃん談だ。
「納得させれなければ?」
挑戦的に千秋君が返す。
ふっと勝者の笑みを浮かべる麻衣子ちゃん。
えっと、まだ勝ってないよ?
「澄にーに千秋が先生の気鬱ネタの材料になってるってチクる。直樹兄さんにも流れで千秋が過ぎた悪戯に手を出してりしてんじゃないか心配って流す!」
チクリなんだ。
立場の悪い千秋君がむっつりと黙り込む。
「千秋」
麻衣子ちゃんの呼びかけに重い感じのため息が吐かれる。
「ツマンナイ拗ね方してるんじゃないのー。逸美にも健にも相談できてないって、言ってもさ、そこで相談要員から外されてるの知ったら澄にーちゃん、怒ると思うなー」
黙っちゃってる千秋君に菊花ちゃんが畳み掛ける。
「澄にーは今、ばたばたしてるし、邪魔しちゃダメだろ? 仕事だって、彼女とのことだって蒼華ちゃんのことだってバタバタだろ?」
むっつりといい訳った千秋君に菊花ちゃん、麻衣子ちゃんが顔を見合わせる。
あ。今思ったけど、女の子三人に囲まれてひとり男の子だね、千秋君。
「そんなばたばたぐらい澄にー日常じゃん。気にしなくていいって」
麻衣子ちゃん軽い!
「うーん。澄にーちゃんなら倫子センセの心配ネタに千秋がなってるのに気がついたら一気に追い詰めに来ると思うな」
菊花ちゃん、腕組みして言うことがそれなんだ。
「タダでさえ先生達って心配多いしね」
「私達今年三年だしね」
「進学だもんねぇ」
「受験勉強イヤー」
「ねー」
私も混ざって女子三人が好き勝手にざわめく。
しばらく放置される千秋君。
居心地の悪そうな千秋君に温情とばかりに菊花ちゃんの所持する抱き枕(実寸マウンテンバイクのプリントカバー)が投げつけられている。
表情はもう、自分がなぜここにいるのかから疑問だといわんばかりに不満げだ。
「鎮がさ」
千秋君が口を開いたのは軽く十分は過ぎてからだった。
「俺が、鎮の事嫌ってるんだって思ってたらしいんだよね」
凹む。と言わんばかりの口調。なんだかんだいって仲いいのにそんな誤解されてたって後から知るとショックなのかなっと思って私は頷く。
ただ、麻衣子ちゃんと菊花ちゃんを見るとぽかんとした表情で、千秋君を見ていた。
だから千秋君に慰めの言葉をかけるのが遅くなった。
「いや、普通にいじめっ子な弟は嫌われてると思うな?」
「鎮に嫌いって遠まわしにようやく言われた感じ?!」
「なにそれ!? 嫌われてる前提!?」
二人にまた畳み掛けるように言われて、今度は流石に千秋君も反論してた。
少し不満そうに視線を逸らす。
「別に……いじめたわけじゃないし」
「はーい。うろなの町の外で鎮の服でナンパしたりは~?」
麻衣子ちゃんが発言。
「そんなの一年の時のことだろ!?」
やってたのか。千秋君。
「いい。愛子」
麻衣子ちゃんがいきなりこっちに振ってきた。
「千秋は本命になれる相手以外には後腐れなく遊んで捨てるタイプだから近づいちゃダメなんだよ?」
「人聞きがわるぃいいい」
あがく千秋君に二人が笑う。
『本命』以外には。かぁ。
「でも、千秋に本命って、……ぅーん、どうなのかなぁ」
菊花ちゃんがぽつと言った瞬間、千秋君の目の色が冷めた気がした。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
より田中倫子先生、高原直澄・直樹さん・蒼華ちゃんお借りいたしました。




