4/26 祈りの場
雪姫ねーちゃんの尊敬しているっていう神父様。
はじめましての挨拶。
こーむてんのおっちゃんと同級生だったっていう情報が嘘だーと言いたいぐらい若い感じ。
でもそーいうのってあるよなー。
どっから若さ吸い取ってんだろ?
教会って感じの教会を前にしてちょっと浮かれてたらしい俺はノアの怯えに気がつくのが遅れた。
芹香がノアを心配そうに見ている。
神父様に挨拶しようとして、それでも顔を上げれずおどおどしているノア。
普段はあまり人見知りしないのに。
少し落ち着いたのか、何とか挨拶をして、二人で散歩に行くかと尋ねる芹香にむけて首を傾げている。
二人で行動させる訳にはいかない。
せっかく来た教会だけど、妹二人が無理なら、しょうがない。またくればいい。
それでもノアが笑顔で神父様に言葉を向ける。甘えて大丈夫か? 無理させてないか心配になる。
涼維が大丈夫だよって小さく囁く。
ノアが照れ隠しなのか、はしゃいで芹香にじゃれつく。ココは芹香に甘えておこう。
神父様の眼差しはやさしい。
黄色。甘い感じの黄色。金属ポイ感じで聞こえない音の環がひろがってく感じ?
きっと涼維に言ったら、「変。わかんない」って言われる気がする。
ま。なんか曖昧でわかりにくいイメージだしなぁ。
「さぁどうぞ」
と中へと招かれて教会に入る。
礼拝のない日だったようでひっそりしている。
礼拝はきっと日曜日だろうと思って外した。
涼維がノアをそばに寄せて、そばにいる。なぜか芹香はきょろきょろした後、ぽんっと俺たちから距離をとって椅子に座ってぼんやりしているようだった。
自分のありようを思い返す。
幸せを求めると決めた。
自分の思いを押し付けすぎずちょうど良い均衡を目指す。
だから、きっちり幸せの形を模索しなくてはいけない。
家族は幸せでいて欲しい。
俺はいつか両親を受け入れることができるんだろうか?
「ホンモノのシスターだぁ」
思わぬ言葉に意識を向ければ、芹香がキラキラとシスターを見上げていた。いや、教会だし。ちょっと失礼じゃないか?
見ているとべぇっと舌を出してくる。
うぉ。かわいくねぇ。
ふっと涼維が袖を引く。
いくら俺でもココで騒ぐのがまずいのぐらいわきまえているんだけど?
◆
◇
◆
教会の中。
ステンドグラスが綺麗。
きっとお天気のいい日ならきらきらと美しいだろうと思う。
隆維涼維兄はカトリーヌ神父様に意外なほど安心していた。
神父様は工務店のおっちゃんと同い年って聞いたけど全然そんなふうに見えない。
ふーしーぎー。
ぶらりと足を揺らす。
思うのはパパが『信仰を持つ人は強く、そのつらなりの結びは強い』って言ってたこと。
パパもパパなりの信仰を持っていた。ソレが一般的かどうかはわからない。
『世に神がいるのなら私が生命の不思議にとらわれ、探求したいという欲求に駆られるのもまた神の思し召しなのだろう』とか、『人生において幸運な出会いにこれ以上なく恵まれた私は神の愛に感謝するしかできない』とかよく言っていた。
最愛の妻であるセシリアとの出会い、愛おしくも自慢の長子グリフ。次男のランバート。そして愛弟子と呼ぶ彩夏母さんとの出会い。その際に息子が二人増えたこと。これは鎮千秋兄のこと。そして長子グリフと嫁であるマンディとの間に生まれた孫。
パパにとっては恵まれた幸せな人生。
ちょっと感謝される神様も苦笑いだったんじゃないかと思う。
『人に、疑う心を授けたのは信じ、愛することを知るため』
『人が探究心を持つのは、より神の意思を知るため』
『人の心が折れるのは、折れぬ信念を見つけるため』
『神は見守り、時に試練を与える。道がないように見えても乗り越えれない試練はない』
パパにとって試練らしい試練のない恵まれた人生。
セシリアママが先に逝ってしまった事だけが試練らしい試練。私が生まれるからセシリアママは自分がいなくてもいいと思ったんだって。勝手だと思う。
私を、『セシリア』と呼ぶパパだって身勝手だ。
私は『セシリア』にはなれはしない。
パパが背負うべきだった試練、辛いことは他の誰かが担ってきただけじゃないかとも思う。
神様にお祈りをするってよくわからないから邪魔をしないように少し離れて考える。
隆維兄もノアちゃんも神様を特に信じてるんじゃなくて、こういう場所に安心を感じてるのかなって思う。
そう、アレだ。
『聖域』
心の中に穢されるコトのない特別な場所。
……。
千秋兄にとってなら『サツキさん』
鎮兄ならたぶん、『空ねぇ』
……。
私は?
心の中心における『聖域』
わからないな。
切り替えて、考えを宗教に戻す。
私がいるべき場所。
そこでは情報として、知識として宗教に触れても『研究探求に禁忌などない』が浸透してる場所。
むしろ、禁忌に触れて知っていこうという彼らは信仰深いのかもしれない。
それがある前提で行動を起こすのだから。
魔女なんて不確かなものに縋るのだから。
あ、予算を出してくれる魔女にならすがりもするかぁ。
うーん。難しいなぁ。
そんなコトを思い巡らせながら確かに静かに考え事をするには向いてる空間なのかなと思う。
ぶらぶらとベンチで足を揺らしながら周囲を見回す。
それほどひろくない礼拝堂。
明るすぎないそこは背もたれのついた木製の長いベンチが並んでいる。
ベンチに座れば、教卓のような神父様がおはなしする場所があって、その背後には十字架とステンドグラスが目を引く。
脇の方にあるのはオルガンかな?
目の前、前のベンチの背中。見えた四角いものを取り出す。入ってたのは二冊の本。
聖書と讃美歌集。
楽譜の下に書かれた歌詞。パラパラとめくれば、なんとなく知ってるような歌もあるようで。
「読めるかしら?」
後ろからかけられた声に振り返る。
そうだ。教会だった。
「ホンモノのシスターだぁ」
ついあげた声にシスターは気を悪くした風もなく優しく笑う。
むこうで隆維兄が微妙な表情をしていた。
葬儀の時に神父様っぽいのは見たことあるけど、シスターははじめてなんだもん。
びっと隆維兄に向けて舌を出す。
苦笑する涼維兄。動きに気がついてキョロつきかけたノアの視線がこっちを見る前に舌は引っ込めて澄ましておく。
アニメとか、役者さんじゃないシスターを見るのははじめてでちょっとドキドキする。
「読めるわ」
大きな声はあんまり良くなさそうなので小さな声で答える。
一応、母国語にあたる日本語と英語は読める。
「偉いのね」
いろんな言葉を知っておきなさいというのがパパの教育方針だった。
だから、いろんな言葉の歌や映画が部屋で流れていた。言葉は小さなうちにいろいろ触れていた方がいいんだって。
シスターの手が優しく撫でてくれる。
「大きくなってから苦労するより今のうちに下積みよ!」
ピッと主張したところではたっと気がつく。
照れ隠しに大きい声出しちゃった。撫でてくれたのを払うつもりもなかったのに。
気をつけてたのに……。
チラッと見ても少し、驚いたようだけど、気にしてる様子はなかった。
涼維兄がちらりと隆維兄を止めてた。
いくら私でもお外で口論する気はないんだけどなぁ。信用ないわね。
「急に大きな声出しちゃってごめんなさい」
つつっと隆維兄の視界から外れてからシスターに謝罪する。
向けられるまなざしが優しい。
お母さんが。こういう目で見てくれたら嬉しいのにな。
◆
◇
◆
「神父さまー」
「どうしましたぁ?」
隆維の呼びかけに神父様がのんびりと応えている。
「なんでそんなにわっかいのー?」
!?
隆維の発言は唐突。
最近、止めなきゃいけないような発言は少なかったから油断していた。
「隆維!」
注意するように呼びかければ、にこにことご機嫌。
「えー。だって気になるじゃん。こーむてんのおっちゃんと同じ年齢なんて聞いたから余計に不思議ー。なぁ? 素直な疑問だって」
「でも、失礼だろ」
普通じゃんと言わんばかりの口調に呆れる。思っても言うべきじゃないことだってあるだろ?
「えー。素直にさ、どこから若さ吸い取ってるの? って聞いたほうがよかった?」
もっと失礼な発言きた!
チラッと見ると神父様は楽しそうに笑ってる。たぶん、隆維も大丈夫だって思って言い放ってるんだとは思う。
「吸い取ってるの?」
ノアが信じられないと言う表情で神父様を見上げる。そのまま、神父様に撫でられてくすぐったそうに笑っている。もう、こわい感じはどこかにいったらしい。
「ほら、ノアが信じちゃうじゃん。ノア、若さは吸い取ったりできないからね」
たぶん。
「お金取れるレベルのアンチエイジングよね」
芹香もしみじみ言わないの!
気分的に疲れて視線を上げれば、きれいな庭の隙間から海が見える。
雲は空を覆っている。
「晴れた日もきれいなんですよぉ。また、おいでなさい。いつでも神は扉を開いていますからねぇ」
優しい眼差し。
「よし! いつか若さの秘密を!」
!!
「隆維!」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
青空空ちゃん、お名前ちらり
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
『人間どもに不幸を!』
鍋島サツキちゃん、お名前ちらり。
http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』
教会とカトリーヌ神父様、シスターの存在。タカさん、雪姫ちゃん(話題)
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
をお借りしております。




