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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014春
465/823

4/25 バイト中

「中途半端な仕事はダメなんだぜ〜」

 カチンとくる。

「事務所でソーシャルゲームに勤しんでる奴に言われたくないんだけど?」

「休憩時間だって〜」

「課金! 経費で落としてる! 返金しろよ」

「短気だなぁ。必要経費だって」

「どんな必要経費だよ!?」

「みみっちぃコト気にすんなーって」

「些細じゃない」

「一種の情報収集だって、流行りや確率とかさ、オークに出せればどこまで回るかとかさ」

「後付けだろ!」

「ヒスんなって。カルシウム剤足りてっか?」

 ポンっと錠剤の入った瓶が投げ渡される。白い錠剤。瓶の蓋は青。ビタミン剤の瓶の蓋は黄色。錠剤は全部白い。

「……ヒスってるんじゃなくて、当たり前の要求だよね。机に足のせんじゃねぇよ」

「っせぇな。おとなしく帳簿つけしてろよ」

「レシートと領収書が明らかに足りないんだけど? それに用途不明金が多すぎんだけど?」

「っせぇな。帳簿を問題なくつけんのがお前の仕事なんだからやれよ」

 …………。

 力を込めて椅子を蹴る。上司というか、先輩だというか、年上だとか、そういう設定は忘れた。

 椅子はバランスを崩して倒れたけれど、奴はきれいに着地。ムカつく。

「ってめ!」

 仕事をするためにはそのための書類がいるっつーんだよ。

「ただいま〜。軽食買ってきたよ〜」

 ケンカが起こるタイミングを壊すようにのほほん声が事務所に響く。

領収書(レシート)は? ミツルさん」

「…………え?」

 不思議そうに首を傾げる黒のセミロングにうろな高校の制服の少女。二十歳くらいらしいので女性と言うべきだろうか?

 現同僚はミツルマサト(たぶん日本人)とミツル・グラッシュ(日系アメリカ人)他にも数人いるらしいが会ったコトはまだない。

「もらってなーい。ごめーん。手書きっとくねー」

「おい。もう六時なってるぜ?」

「ごっめーん。千秋ちゃん、お姫様は無事帰還したから、引き継ぎよろしく〜がっこ行ってくる〜」

 がっこ。ミツル・グラッシュは定時制に通っている。一時間目はいつも遅刻。『先輩たちがいい味出してる』とかこないだ言ってたな。ミホや健とは仲良くなってるとか。学年違ってるのに。

 見送って、一拍。

「引き継ぎ報告は受けてるし。気にしなくてかまわねーよ。現職務は不満だろうけど、教育役はまだ来日してねぇから。事務職も大事だしな」

 ポンと投げ渡される錠剤の入った瓶。

「休みの前日はそっちな」

 不満そうな視線に気がついたんだろう。ニヤつかれる。

「別に平日も飲んでいいんだぜ? 生活に影響は出るだろうけどな」

 ……。

 ニヤつかれるのがムカつく。

 マサトは俺のコトがたぶんキライ。

 聞けば笑って頷いた。マサトもミツルもだ。

 それでも、踏み込むコトにしたから。

 知るコトを決めたから。

「休日の前だね」


 仕方なさそうなため息。

「何で踏み込むんだか。気がつかずにいれば良かったろうに」

 カッとくる。

「妹に安全を買ってもらって踏みにじってろって言うのかよ」

「マジの妹じゃねーし、お前らの命自体坊ちゃんが先に買い取ってるよーなもんじゃん?」

 手元で軽いゲーム音が聞こえる。

「だから、気がつかずに、普通に生きていくのが本来のあり方じゃね? 今ならまだ引き返せるだろ」

「い」

「イヤだと言う前にさ、そんな価値が自分にあるのかちゃんと考えてみたらどうだ? このまま知ってどうする? お前に何ができる? 元々望まれてる位置は表舞台で財源保持。裏をさ、暗い部分をさ、知ろうとするんじゃねぇよ」

「いやだ。鎮も芹香も兄妹だ。あいつらが勝手に動くんなら、俺だって勝手でいいだろ」

「ま、どっちにしろ、経理事務以外の情報は手にはいんねーし、教育役だってどこまで素直に教えるか。ま、覚悟しとけよー」


 向けられる言葉は嫌いだから排除したいのか、尊重したい相手の意思からそれるから戻そうと告げてるのか、わからない。

 ただ、悪意だけではないと感じてる。



 手の中には青い蓋の瓶と白い蓋の瓶がある。

 白い錠剤は各瓶に七錠づつ。

 白い蓋を開けて一錠口に含む。

「帰ります」

「お。おつかれー」

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