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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014春
464/823

4/26 しんぷさま

 その建物は見てると不思議な圧迫感があって怖かった。

 ぎゅっとセリちゃんの手を握る。


「ここだー」

「ついたね」

 お兄ちゃんたちのほっとした声。

「ついたわね」

 少し緑ぽい黄色のセリちゃんの眼差しが落ち着いた口調を裏切って心配そう。

 きゅっと握り返される手で少し安心する。

 やわらかく嬉しそうなお兄ちゃんたちの声。

 見上げる建物はどうしてか、怖い。

 建物として大きいってわけじゃない。

 どうしてこわいのかもわからない。だから見上げるのをやめてセリちゃんの手を見る。

「どうかしましたかぁ?」

 聞き覚えのない声。ちゃりりと金属音と銀色のきらめき。

 キュッとセリちゃんに寄る。

「神父様」

 涼維お兄ちゃんの嬉しそうな声。お兄ちゃんたちとセリちゃんが再会のご挨拶とはじめましてのご挨拶。

 こわい人じゃないはずなの。涼維お兄ちゃんが大丈夫だって思ってるんだから。

「ノア?」

 心配の色が含まれた隆維お兄ちゃんの声。

 ご挨拶しなきゃなのに顔が上げれない。

「恥ずかしがり屋さんですねぇ」

 安心させるような声にそっと、『神父様』を見る。


 ーーだいじょうぶですよーー


 そんな声がダブって聞こえた気がした。


 一年生の夏にパパ連れて行ってもらった故郷。

 ノアが生きてることを、元気なことを喜んでくれる人たち。

 嬉しくて恥ずかしくて、こわかった。

 だって本当の故郷はなにも残っていない場所だった。

 ここみたいに少し坂を上った先にある壊れそうな建物だけがポツンと残っていた。

 本当のいる場所はソコで、ノアはお兄ちゃんたちといるのが間違ってる?

「大丈夫ですよぅ」

 銀色の十字架が近い。

 にっこりと優しい笑顔。

「のあ、日生ノアです」

 ご挨拶をして、なにかが恥ずかしくてセリちゃんに縋る。

「ノアちゃん大丈夫?」

 セリちゃんが庇うような立ち位置で聞いてくれる。

「なにか、こわいんなら、ちぃ兄が教会堪能してる間散歩してもいいんだし?」

 こわいのは否定できないけど、それはダメだと思うの。

「二人行動はダメに決まってるだろ。いつもの範囲から離れてるんだから」

 隆維お兄ちゃんが言う。

 教会を楽しみにしてたのを知ってる。それに、建物を見上げる。

 さっきほど怖くないと思う。


「ノア、だいじょうぶだよ」


 お兄ちゃんたちもセリちゃんも優しいの。そろっと神父様を見上げる。

 やさしい空気。

「おじゃまします?」

「はい。いらっしゃい」

 柔らかな笑顔とゆっくりな言葉にふんわりと嬉しくなる。

 ノアの行動に少し混乱するセリちゃんにぎゅっと抱きついた。




 ーーただ、思うように生きればいいんですよ。亡くなられたご両親も、天の(ちち)もそれを望まれているのです。あなたが健やかに正しくあるようにとーー



 ただただ、パパとママのところで幸せで、故郷の様子がかなしかった。

 なにもなく、きれいな場所でなく、ノアと同じくらいの子もはたらいていた。

 ノアは故郷に混じれないのに気がついた。

 ノアはあそこで生まれた。でも、ノアはあの場所を知らない。

 パパとママの娘になったから。

 きれいじゃないお水からもけがをしそうなことも、お勉強できないことからも遠い。

 いっぱい『ない』のにノアが『持っている』ことを喜んでくれる。

 はじめて会ったけど、あそこは故郷で家族だった。

 いつか優しさを返したい。

 ノアの幸せを願ってくれた故郷(あそこ)の人々に。

 ママみたいに人を助けられるお医者さんになってなにかをかえしたい。




 ぽつんと残った古びた建物で待っていてくれたおじさんが『お母さん』のお墓を教えてくれた。


 おじさんもロザリオをかけていた。



『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』

カトリーヌ神父様・教会お借りしております♪

http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/

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