4/28 料理部のくじびき
二段飛ばしで階段を駆け下りて追いかける。
「千秋センパイ!」
緩慢なダルそうな動きで振り返った先輩のくすんだ暗い赤毛が揺れる。驚きに見開かれた目。驚かせることに成功し気分が良くなる。
「なんでこう、落ちて来るんだよ! 階段はまともに歩け! 跳ぶんなら周囲と足場にはちゃんと注意しろ!」
反論できないお叱りを受けた。
ちらちらと周囲から見られてて少し恥ずかしい。
「まったく。……ケガはないか?」
ぱんぱんと服のほこりを払いつつ聞いてくれる。私は頷いて、その腕を取る。
「ないです。で、捕獲して来いと部長命令です」
「えっと、バイトが、ね?」
その言葉は聞かずに腕を引いて調理室へとむかう。
「連絡入れるから、ちょっと待って」
「先輩、バイト、してたんですね」
「ん~。四月からね」
あれ?
その場で止まってメールなのか、SNSかで連絡をしている先輩を見てて疑問が過ぎる。
「受験生、ですよね?」
「うん。そうだね」
受験生でバイトしてていいんですかと問い詰めたい。
あれ?
普通に会話、できてる?
「あの」
「ん?」
先輩の視線はスマホから外れない。
「受け止めてくれてありがとうございました」
そこですっと眼差しを感じる。
「足場、気をつけたほうがいい。三度目、あったらもっと怒るよ?」
「そんなに何度も落ちないしっ!」
い、いくらなんでもそれはない!
「だといいけどねぇ」
むぅとなる。
「千秋先輩は意地悪だと思います」
必死に先輩への口調にしがみつく。気を抜くと崩れた挙句、罵ってしまいそうだ。
「千秋捕獲ーーー!!」
横を風が過ぎたかと思ったら、部長が千秋先輩に飛びついて押し倒していた。
「うっしゃー! よくやった千佳ー! 押さえててくれたから逃げられずにすんだわー」
ぶんぶんと振られる拳。殴るためではないらしい。
「……おもい。ん、だけど?」
ひっくい声。
「っふふん。女の子に体重は禁句。非力アピールしたいんならいいけど、いつもの猫はどこへ?」
「バミューダ海域で彷徨ってるんじゃねーの?」
「あっそう。とりあえず、方針決めだし、参加してよねー。メイン技術者なんだからさー」
ぽんぽん会話が飛び交う。
「バイト入ってたんだよ」
「知りませーん。ARIKA以外のバイトってめずらしー」
「ARIKAはバイトじゃなくて家手伝いの延長だって。初バイト中」
「マジ? いきなりサボったらマズイ感じ?」
「んー。大丈夫。連絡済み許可は取った」
「あ、そう。じゃあ方針決めだー! ほら、入った、はいったぁ!」
部長が元気に引っ張って部室に入る。
少し疲れたような千秋先輩が大人しくついていく。ただし、するっと隅っこに椅子を持っていって、寝た。
「さぁ! 方針決定と、次の部長を決めるぞー!」
「二年生と一年生でくじを引いてねー」
「当たりくじを引いたやつが部長だー!」
なんですと!?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
『ARIKA』話題にお借りしました。
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/




