4/11 すり抜ける
「俺らの部屋に今日は泊めてやろう」
「着替えは持って出てきたー?」
「リビングのソファーでイイよ。荷物は財布とアドレス帳だけ」
顔を見合わせるりゅーとりょー。
ピタッと背中にりょーが張り付く。
「涼維の方が少し背の高さあるなー。幅はー、いけそうだな。あと鎮兄と千秋兄の着ないやつかっぱらってくるかぁ。オシャレなのは千秋兄ので着心地、機能性重視が鎮兄のね、リクエストある?」
「着替えがあるだけありがたいよ」
「涼維」
「ん~? どうするの隆維」
「テキトーに兄ちゃん達のクローゼット漁ってこい。あ。千秋にーのベッド下は季節外してるはずだからノータッチで」
「わかったー。んじゃ、いってくるー。隆維いじめんなよ?」
そんなことを言って部屋を出て行くりょー。
チラッとりゅーを見れば、クローゼットを開けてごそごそしていた。
「りゅー?」
「んー? 赤とかより白とか、水色とかの方がいいー? 黄色とかモザイクプリントとか、黒に赤のツートンカラーとか? あー、着れればいいんだからマネキンでいいんだよねー。どれがいいかなー。とーさんに言えばちょちょいと新しいの作ってくれると思うけど、どんなの頼もうかな」
ちょ!
「まて! なんでそうなる?」
「えー。だって着れればいいんだろ? あ、飛鳥ねぇちゃんにメールしときなよー?」
何着か服をベッドに放り出す。
パッと見にサイズは問題なさげで、色もデザインも無難系。ほっとして部屋を見渡した。
大きいサイズのベッドに勉強机らしいものが三つ。本棚にはなんだかごつい事典や図鑑に翻訳本ジャンルは偏ってるようなばらけてるような。壁には無造作に額縁がいくつか。家族写真ぽいものや、イベント写真、時計やジュエリーの写真。なんか蛇が縁取る海中幻想絵画や黒い天馬の絵画といろいろだ。
「あの写真は?」
「んー。鎮兄だよー。鶏って言ったら泣くから白ガラスで」
横に写ってるバニー天使って、彼女さん? そばにりゅーやりょーもしーちゃんとほぼお揃いっぽい格好で写っている。
「多分、明日には部屋準備できると思う。ま、すぐ使える部屋が隣にもあるけどさ、体調悪い時用の部屋だからあんまり使ってほしいとはおもわねぇし。いろいろ、話聞きたいんだよね」
ぽんっと、トレーナーとズボンを叩く。
「とりあえず、着替えねー。涼維戻ってきたら風呂行ってー、着せ替えてー、多分ご飯でー、ちょっと夜更かしでだべろーぜー」
「着せ替えはいらない!」
「隆維に怒鳴んなよ」
りょーに殴られた。
「この白い人は? コスプレパーティ?」
「雪姫ねーちゃん、彼氏いるからな?」
「中学校の清水先生の結婚イベントの写真、みんなはっちゃけてたからなぁ」
こういう会話を聞いていて思う。
「人付き合い、できるようになったんだ」
りゅーとりょーが視線を交し合う。
「あのさぁ、みどりちゃん」
「な、なんだよ」
なんで仕方なさそうに見られなきゃいけないんだよ。
「俺達さ、日本になんか来たくなかったんだよね」
そう、言ってひとつ呼吸を整えて、蒼の瞳がおれをうつす。
「実の親なんか興味なかったんだよ。だから、家から離されて」
「それでも、迎えに来てくれるのを待ってたんだ」
わかるけどさ、そう言うのってこねぇもんだよな。
「だから、必要以上に仲のいい相手は作りたくなかったんだ。帰る時、辛いだろ?」
「みあのあは妹だから、可愛がってもいいけど、あの二人はとーさんの娘だし」
そこに透かし見えるのは微妙な拒絶。
「とーさんは俺等より兄ちゃん達に意識かけてるし。まぁ、いいんだけどね、お互いに距離感わかんないし」
あ、気にしてる。
でも、暁あにぃがしーちゃんを気にするのはそれなりに理由があるらしいんだけどな。
「でも、様子は違うよな?」
「まね、そう、幸せ追求をしようと思ってるんだよ。だからさ、友達作っていろいろ手を伸ばしたいんだ。自分とまわりが幸せなら嬉しいだろ?」
にこにこと言うりゅー。りょーが黙ってりゅーを見ている。
ぱたりとベッドに寝転がって手を上に伸ばす。
「欲しい物には届くように手を伸ばさないとさ、すり抜けちゃうんだよ」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
より空ちゃん
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
より11/30結婚式イベント
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/107/
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』
より雪姫ちゃん
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
を、話題としてお借りしております。




