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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014春
452/823

4/2 ごめんからの

 電源を落としたままのケータイを見つめる。

 そっと商店街に視線を巡らす。

 アリアが俺のそばか、隆維のそばか少しきょろついてから俺にへばりつく。

「隆維」

「なにー?」

「ケータイ貸して」

「なんで?」

「使うから」

「自分のは?」

 普段は気にしないくせに黙って出かけていたことが不満なのか、反抗的だ。

「電源落としてある」


『…………なんで?』

 

 怪訝そうにハモる双子。


「海ねぇに時間あるか聞きたくてさ」


『自殺願望!?』


 そこ、ハモるな。

 実際さ、

「トラブってさ、こわくて電源入れてない!」

 言い切るよ。うん。

 その前からトラブルぎみだったのにさ。外野にトドメ刺されてたなんてさ。まじシャレにならない。

「アリー、ジークのかわりに、『ごめんなさい』なの! ジークお仕事なの。ネ。チアキ」

 鎮に会いに行こうプラン組んでたアリアは動きやすかったもんな。問題を起こした当のジークは勤務があるから動けない。『美人さん(きっと)に会えないのは残念だぁ』とか吠えてたけど、出会ったらまず駆除られるんじゃないかとは思ったりする。

 ぎゅうぎゅうじゃれついてくるアリアを撫でておく。

 二人の視線は明らかに責めている。世の中、ままならないんだよ。


「メール、送っといた。『千秋兄が時間あるか聞いてる』って内容でさ。自分(そっち)の電源入れとけば?」


「電源切りっぱも怒ってると思うな」


 隆維も涼維も突き放すような口調。俺達も怒ってますアピール。それでも手を貸してくれるのはありがたいと言えるとは思う。


 はは。

 そこはそう思うよ。乾いた笑いがちょっとこぼれる。

「忙しかったんだよ、いろいろと、さ」

「ふぅん」

「隆維が気にするようなコトじゃないから涼維も心配しなくてイイからな?」


 そう伝えれば、視線がキツくなった。

 気にしなくてイイって言ってるのにな?

 興味、ないだろう?

「知らない。それは千秋兄の基準でしょ? そこをこっちが考慮したければするし、したくないならしない。心配は、したいしたくないでするわけじゃねーんだよ」

「知ってる。でもさ、あんまり気にしないでくれると俺も助かる」

「知らない。先に帰ってるね。帰ろ涼維。あと、アリアのコトはまだ、鎮兄にも海ねぇにも内緒でいいんでしょ?」

「ん。助かる」

「覚えてろー」


 なぜか捨て台詞と共に涼維を引き、歩き出す隆維。あいつのこういうとこよくわかんないよな。本人自身が心配ネタの宝庫のクセに。






 ◇


 待ち合わせは『ARIKA』の前。

 この時期のビーチにはあまり人はいない。散歩時間を外せば意外と密談には向いている。


「ただいま〜。海ねぇ」


 睨まれる。

 うん。ほら。今日は逃げない逃げない。

 とりあえずは直接顔を合わせての謝罪だよね。


「心配かけてごめんね。でね、アリア」


「はい! アリアです。ジークがゲヒンなコト言っちゃってゴメンなさいでした! フローリアやチアキがジークのコトちゃんとシメタ? から! ゴメンなさい」


 うん。ちゃんと絞めた。

 でも事態をレックスから聞いた瞬間、電源落として向こうにいる間は忘れるコトにした。

 うん。ものすっごく睨まれてる。視線が痛こわい感じだ。


「ケータイの管理が悪かったのは悪かったと思う。うん。嫌な思いさせてごめんなさい」

 ここは謝ってもいいポイント。んで言い訳。

「アリアのカンペは気にしないであげて、ちゃんとごめんなさい伝えたいって練習してたんだ」

 ぎゅっとアリアを抱きしめる。

 見上げてくる表情はがんばったーと言わんばかりの笑顔だ。

 うん。がんばってもうちょっと、盾になってね。


「あの仕込みはなんだ?」


「俺じゃないからね? その時、入院患者の面会ハシゴとか、ソレ関連の用事しててケータイは放置してたんだから」

 いくらなんでもそんな自殺願望ないよ。面倒だし。

 見下ろせば心配そうなアリアの眼差し。大丈夫だと、撫でておく。


 海ねぇが少し視線を下げる。

 気がついたアリアがじっと見返す。


「アリア、二歩前。次、右に二歩。そのまま回れ右して、GO!」

 

 海ねぇのジェスチャーつきの言葉に大人しく従いつつ、少し不安そうに俺を見上げる。

「少し離れていて、あんまり遠くにいっちゃダメだよ?」

 その言葉にアリアはとたとたと距離をとる。離れ際に一瞬握られた指先の不安はいったいどっちのものなのかがわからない。


 で、気がつけば首をとられる。

 グリグリと頭に感じる圧迫。圧力。


「ちょっ! いたい。痛いって」

 

「チビを盾に取るんじゃねーってぇの!」


「そこは悪かったとは思うけど、でも! 当然の防御策・回避行動だよ!」


 無条件で怒ってるとわかってる海ねぇに接近する?








 あ・り・え・な・い!!












「は。ぁあ~~?」


 ああ、もう、何でそんな地底の底から這うようなこわい声だすんだよ。萎縮するじゃん。


「心配をかけたことも、ケータイの管理が悪かったことも! アリアを盾のように使ったことも、そこの非は認めるよ。でも、頼んでないし、正当防ぇ……、いたいいたいいたいってば! 首絞まるじゃん!」


 殺される。

 きっと、その上で身内のほとんどに『自業自得』と、言われそうな気がしてたまらない。

 ほぼ、確信。かな。


 確かにさ、思わなくもないんだ。

「届かなくても、見ていて心配だと思ってしまったり、間違ってるとしか思えないから何とかしようとしたいという心境はわからないでもないけれど、変えられないことと、踏み込まれたくないことがあるんだよ。僕にとっての料理って最終さ、サツキさんの表情を見るためか……、鎮が興味を持ったことを取り上げた。以外の価値はないんだよ。確かに上手にできないのは、確認できない状況はどこか悔しい。それでも、それ以上に楽しくない。嬉しくない。何も思えない。『許せない』と言われてじゃあやめようと思えるくらいに軽くしか感じられない」

 どこかで、やめるきっかけを探していた。

 だから人柄も何も知らない彼女の言葉をすっきり取り込めた。

 なぜそんなことを言われなくてはいけないのかと言う反発心よりも、受け入れるのが楽だった。

 宗くんのことを見てて心配になったり、イイのかなと思ったりもした。

 健の言葉にも考えるところはあった。

 だから、同じかなと思えた。聞いてくれない。でも手を差し伸べたい。海ねぇが手を差し伸べてくれてるのは嬉しい。

 たとえその理由が理解できなくても。

 どう伝えればわかってもらえるのかがわからない。

「味がわからないのは間違ってるのかもしれないけれど、僕にとってはただ、サツキさんと一緒に動かなくなったものなんだよ! 命まではかけられない。それは確かだけど、後悔はないんだ。命をかけるんならサツキさんに死をもたらしたものをどうにかできる時だけだよ? ねぇ、海ねぇ、サツキさんはもう動かない。何の影響ももう受けない。動かないよね? だから、僕が想っていてもいいよね? 心を、動かしたくないんだ」

 うまく伝えられないのがもどかしい。

 このままでいいんだ。

 誰に間違そういに見えても僕の中では間違いじゃないから。

 他の誰に届かなくてもいい。理解されなくて構わない。でも、手を差し伸べてくれてる海ねぇには返したい。わかってほしいとも思う。コレは矛盾。


 黙って、聞いてくれる海ねぇの反応がこわい。


「お前が、あの子の事を想ってんのは、良くわかった。それはいいと思うよ。想ってる事は……いいと思う、あたしは」

 肯定の言葉かもしれない。それでも妙に海ねぇにあわない静かな言葉。

 そのまま紡がれる言葉に呆然となる。


 違う。


 何かがずれている。


 伝わらない。


 襟元を掴まれて揺さぶられてもわからなくて反応ができない。


 どんな形でも、僕がサツキさんから影響を受けることができてるのならソレは、しあわせ。なんだ。


 それが、……わかってもらえない。


『影響を受けず変わらない』のはサツキさんだから。

 サツキさんから貰った以上の『幸せな気持ち』を感じない。知りたくなかった。知らなければよかった。でもソレを手放したくない。知れてよかった感じることができて嬉しい。

 他への価値が薄くはなったけれど、それでも譲れないし、幸福の形のひとつだと思う。


 するりと呼吸が楽になる。

 なにか、雫が見えた。


 え?


「……あ、みねぇ……?」


 涙?


 見えたと思えたのは瞬間ですぐに背中しか見えない。

 震える拳。


「……踏み、込まれたくないんなら、もう……何も、言わねーよ……けど……」


 呟かれる言葉は微かに震えを含んでいて。


「……腹立たしいなぁ、ほんっと……!」


「……遠くにいる……、あの子は千秋あんたの心に届くのに……近くにいるあたしは……っ!」


「……千秋あんたの為に、何もしてやれない自分が……一番腹立たしいよ」


 呟いて、そのままその場を去る海ねぇ……

 そんな気持ちにさせるつもりはなくて。

 うまく届かず、ただ、お互いの何かが噛み合っていないことが理解できる。




「なんで!?」




 わからない。


「同じだね」

 ぴとりと感じる高めの子供の体温。いつの間によって来てたのか、アリアだ。

「アミはチアキとおんなじ。アリアも、チアキに間違ってるって言われてもわからない。チアキもアリアと一緒。チアキはアリアをどうしたい? アミはチアキをどうしたいの? チアキはアミの気持ちがイヤ? アリアはわからなくてもチアキがアリアを想ってくれる事が嬉しい」

 くしゃりとアリアの髪を撫でる。


 歩いてたから追いつける。


 わからない。

 手を差し伸べられてることはわかる。

 お互いにすれ違う。同じ言語を操っても言葉が通じない。

 望んでいることが伝わらない。

「ここで、待っててね」

「アリア待ってる♪」

 嬉しそうに笑うアリア。






「あ、あみ、ね、ぇ!」


 息が切れる。

 走んのはやっぱり好きじゃない。


 だからって伝えたいと思えることを伝えないのもいやで。

 伝わらなくてもいい。

 手を伸ばして海ねぇの手を掴まえる。払われるかもしれない投げ飛ばされるかもしれない。

 だから早く言わないと。




「ありがとう」




 何かを言われる前に伝える。

「海ねぇが思うことと僕が感じてることって多分、ずれてて、お互いに理解できないんだと思う。でも、あ、みねぇの気持ちは嬉しいからありがとうって思う。気にしないでいいと思って伝えた言葉がこじれる原因になってて、わからなさは倍増だけどさ、僕はさ、自分が間違ってるとは思ってないんだ。ただ、外からはそう見えるらしいから『間違い』って言った。人にどう思われても気にならないけど、手を、差し伸べてくれた海ねぇにはどこか、わかってほしかったんだと思う。……あのね、感じない、欠落がね、僕は嬉しいんだよ? 間違ってるなんて思えないんだ」

 言い切っておく。とくに反応がなくて少し気になる。


「そ、それと! おみやげ!」

 紙袋を押し付けて踵を返す。

「アリア置いてきてるから。じゃあ」

 中身を確認される前に逃走する。

 気まずいしね。


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

から海さんを。

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/


『人間どもに不幸を!』

から鍋島サツキさん話題に

http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/


『月刊、うろNOW!』

http://book1.adouzi.eu.org/n3868bw/

から澤鐘日花里さんとの出来事。


http://book1.adouzi.eu.org/n3868bw/16/


を、お借りしております。



「公園でこぼしても鳩すら寄ってこない原色着色のポップコーンだしなー。ヘタしたら怒られるなー」

「アリア、好きだよー♪」

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