三月末☆電話が鳴ってる
うろな町の外
千秋の滞在先で
「鳴ってるな」
「鳴ってるな」
迫りくる危機を想像させる着メロで鳴るテーブルに無造作に置かれたスマートフォン。
「と、とりあえず、出てイイよな?」
一人は好奇心にうずうずと手を伸ばし、
「待て、この場にいない相手の電話だぞ?」
一人はそれを諌める。
「いやいや、彼女かもしれないじゃないか」
「言葉が通じないかもしれないだろーが。それに彼女ならなんでこんな選曲なんだよ」
「きっとテキトーに決めたんだって。日本語は勉強してるじゃん!」
「フランス語やギリシャ語だったらどうすんだよ!」
「でも、気になるしー。ほら、向こうもまだ切らないみたいだしさー。ていや」
『……!……』
流れ出す声は女性のもので時々、持ち主の名前が出てくる。
「……彼女?」
「あの声はきっと美人。ただ、速すぎて言葉が聞き取れなかった。でもあれは日本語だ!」
「あのさ、結構怖くなかったか?」
「いやビビるな。相手はきっと本当はたおやか優しいヤマトナデシコだ。きっと、チアキと喧嘩中なんだよ。あのくらいしなきゃわかってくれないんだよ。チアキが。かわいそうなチアキの彼女」
スマートフォンが音を拾わないぐらいの距離をとってこそこそ話し合う二人。
「仮、つけとけ。で、距離とってるけどさ、まだ繋がってるよな?」
「ああ」
「対処、どうするんだ?」
「ふっ。任せておけ。ワタナベさんから聞いた女の子向け日本語ジョークがある」
「えー。大丈夫か?」
「大丈夫だ。日本人は優しい民族だからな」
呼吸を整え、スマートフォンの前に座る。
二人は覚悟を決めたかのように視線を交わす。
『おーい。ちあき〜?』
「ハロー」
『!?』
「オジョーサン、イマ、ドンナ下着キテるのー」
『……ッ』
二人は顔を見合わせる。
「切れたな」
「ああ。切れたな。なぁ、今のジョーク、意味はなんだ?」
「知らん。でも、受けなかったな。ウソ、つかれたのか。それとも時代遅れだったか? ワタナベさんに受けるネタをちゃんと教えてもらわなければ!」
「ジーク、レックス、シャワー浴びてくるから、着替え貸して」
「ああ。今準備する」
「スマートフォンなってたぜー」
「ふぅん。……今はイイや」
「充電しとくかー?」
「あ。よろしく」
「おう!」
「これでいいか?」
「うん。サンキューレックス」
「いや。かかってくるとしたら、やっぱり彼女か?」
「違うよ。今、かかってくるとしたら、向こうでの幼馴染。ちょっと対応しくじったぽくて。どーしよーかなって感じ」
「……」
「……」
『シャワー浴びてこいよ!』
「うん……?」
見送り、充電中のスマートフォンに注目。
「なぁ」
「おう」
「やばくないか?」
「いや、大丈夫だろう? ジョークがつまらなかったぐらいでそんなにこじれたりしないだろう?」
「……。希望的観測、だな」
「おう。やっぱりやばいか」
沈黙。
「どぉしよおおおおお」
「知るか! 俺は止めたぞ!」
電話をかけてきたのは誰だ!?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より青空海さんお借りしました




