新婚さん
「千遥さん、いいんでしょうか?」
「ん~。いいんじゃない? 使わないより使ったほうが。洋ちゃんは北小だから、職場少し遠くなっちゃうけどねー」
「いえ、それは気にしませんが」
「お義母さんが気になさる近所より、少し離れていてそれでも来ることのできる距離がちょうどいいと思うのよ?」
そう言って、千遥さんが笑う。
もともと相談に乗ったりもしてくれていたし、信弘の協力も有りここまで進んだわけだが、どうしてここまですすめたのかがわからない。
一戸建て庭付き。借家として貸し出していたが今ちょうど借り手が途切れたとかで空いていた。
「なら結婚しちゃおうか」
千遥さんは軽かった。
唖然としてついていけない様に軽く笑われる。
「年上は嫌いかしら?」
ふたつみっつ程度の年の差なんて年の差にも入らないと思う。
縁と紗羽を引き取って半月でそんな提案をされて、とんとん拍子、春休み中に入籍と引越しを済ませた。縁の小学校は南小。
「ああ、それとも、茜ちゃんが気になるー? 高校の時付き合ってたでしょ?」
「縁と、紗羽のためですか?」
一拍置かれる。
「違う。とは言えないけれど、それだけじゃないわ。あなたとなら共にやっていけるとも思えたのよ。私は自分の判断力には自信ないんだけどね、一回失敗してるから」
自嘲気味に笑う。
責めたかったわけじゃない。 傷つけたかったわけじゃない。
「二人とも、失敗してるんですよね」
あなただけじゃないと伝えたい。でもコレ情けなくないだろうか?
「縁君と紗羽ちゃんのお母様のことは知らないからね。でも学校もなれるのに大変だったんでしょう?」
「寂しい想いをさせてしまったんですよね。笑っていてくれたから気がつくことができなかった。言い訳、ですね」
くすりと千遥さんが笑う。
「大丈夫。私はそこまで寂しがり屋じゃないし、子供たちもきっと思わぬトラブルを引き起こすわ! 楽しみね」
「あの、そこは程々がいいかと……」
「洋ちゃんも、『おとうさん』になれなきゃダメよ? おうちで『先生』になっちゃダメなんだからね?」
顔が近い。
ひらりと軽い動き。
「ウチ、もう、トラブル抱えてるんだよねー。だから、諦めてね」
にこやかに言われたセリフに動きが止まる。
トラブル?
「年頃の女の子二人だよー。おとうさん、頑張れ♪」
少し、気が重い部分もある。
父親に、なれるのかが不安なのかもしれない。
茶化すように軽くふるまう千遥さん。
「一緒に、家族になっていきましょう」
そっと抱きしめる。
彼女はその束縛を解くことなく見上げてきて笑う。
「やだ。洋ちゃん、真っ赤だよぉ。ここは照れずに言わなくちゃ」
「無理、です」




