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雨の降る外を見る。
帰国してお土産撒いてから隆維たちと帰って帰ってきた俺たちに「おかえり」と言った鎮が反応したのは俺にじゃなく、アリア。
驚いたように呟かれた「ありあ」と言う少女の名前。
小さかったけど不満が聞こえた。
「何連れ出してるんだよ」
不満、だろうか、それともただの事実だと言うんだろうか?
うずうずとする少女に鎮は腕を広げる。
迷わず飛び込んできた少女を受け止め、額にキスを落とす。
「パパに会いたかったの。ダディとチアキにね、おねぇちゃんだけ会いに行くなんてずるいって!」
名前をつけた鎮を『パパ』と呼んでいることには少しして気がついたし、まわりも自分たちが記憶している鎮の話をアリアにしているようだった。一部、俺とのやり取りも流してるみたいだったけど。
どう思うのかを聞いてきたのはグリフにいさん。
最初何についてかわからなかった。
本格的な帰国の提案。
にいさんの仕事を手伝わないかと言う提案。
それは芹香が先々継ぐ財産を減らさぬよう、その価値を守り、できれば増やす作業。
それでも、その手伝いはどこであってもできるのだから、日本にいる、つまりうろなにいてもできると言う。
それでもその檻に関わらないと言う選択もあると笑う。
『檻』と言う表現が気に入らない。
「シーを見捨てられるかな?」
有り得ない事を問われて気に入らない。
「それがまず鎖の一本」
指が一本立てられる。
「ティセリアが傷ついても構わない?」
芹香はアンタの妹だろうと怒鳴りたくなる。
「それも鎖だっていうのかよ?」
腹立たしい。
「そうだよ。チアキ。心で織り上げた檻を壊すには鎖を傷つけ、破壊することもある。チアキはそれを選べるのかい?」
「鎮も、芹香も、あの町でここと関わらない関係を築いている。ここが檻だっていうんなら戻る必要もないじゃないか!」
誰が好き好んで檻に繋がれるというのか。
「ティセリアは戻ってくるよ。そう約束してるから」
「約束?」
「君たちが自由を望んだ時それを阻害しないと言う約束でね。教えないとは約束してないからね」
「な!?」
「あの子達は君の鎖であり、君もあの子の鎖なんだよ。どうして、驚くのかな? 驚くようなことはないと思うな? 実に尊い愛だと思うよ」
「自由であってもイイ。だがそばでその才を奮ってほしい。それも成長を見守っていた者の望みになる」
「なんでだよ。なんでそうなるんだよ」
わからない。
「ティセリアはチアキとシーを兄として愛している。理由なんてそれだけだろう?」
やわらかなグリフ兄さんの声。
「マンディが体調を崩していてね、メールでも言っていただろう? 手伝って、ほしいと。チアキならきっと、出来るからと」
「千秋兄?」
下から覗き込んでくる妹。
明るい黄緑の瞳。
「バカだろう」
つい言葉が出た。どうしてつまらない約束をしてそれを黙ったままいるんだろう?
そんなつまらないコトを考えるにはまだ小さいのに。
ギロリと睨んでくる。
「バカって言う方がバカなんだから。人を傷つけるようなコトを不用意に言うべきじゃないのよ? そんなコトも知らないの? それに、ちょっとぐらいおバカなとこがあった方が可愛いでしょ。ヘタレよりマシだと思うし。あ、別に千秋兄を指してヘタレって言ってるわけじゃないよ? ヘタレに悪いでしょ?」
返ってきた言葉の量はやたら多かった。
ヘタレ以下ってなんだ?
「家族、なんだから、ヘタレ以下でもバカでもしかたないでしょ?」
芹香はそう言うとアリアを抱く鎮を見ている。
「ねぇ」
「ん?」
「これってコブ付きってコトになるの?」
不満そうな声。
ふと気がつく。
「ねぇ」
「姉が帰国したら迎えに来るだろうってレックスは言ってたよ」
日本に来てたらしいアリアの姉エルザ。
「そう、なの?」
「まぁ、用事があればミツルさんが迎えに来て送って行くらしいけどね」
エルザには会ったことがない。
どんな相手か知らない。
少なくとも俺よりあいつとの距離は近い。なにかが、違うな。うまく届かない。
芹香を抱きしめてみる。
「のぁ?」
「芹香はまだ難しいことを考えることも責任を感じる必要もないんだよ?」




