3/18 エルザ襲撃3
「余計なことばっか、言って」
「ヒドイわねぇ。ロクに連絡も寄越さないシーも悪いのよ。ソラさん、良ければまたおしゃべりしましょうね。邪魔のいないところでいろいろ情報交換しましょう?」
にこにことエルザが空に話しかけている。ちらりと向けられる視線は告げ口されたら困ることでもあるのかと問うような眼差し。
お前、ないことないこと吹き込みたいって言ってたじゃねぇか!?
「エルザ」
「コレ、メアドね」
え!?
「エル……」
「あとはシーのいないトコでソラさんと話そうと思うの」
ニコニコとエルザが俺に笑いながら宣言する。ずっと一緒にいるなんて無理でしょう? そんなことを言いそうな表情で。
「えーっと、キュートなアクセを見つけたし、ヨロシクしてイイかしら? シー」
差し出されたアクセ(ピンクのヘアピン)を持って店長さんのところへ行く。気分は負けっぱなし。
「お願いしますー」
手渡してちらりと振り向けば、エルザが楽しそうな表情で空に何か言っている。
「う~~~~」
「心配はしてないんだよね?」
店長さんに確認するように小さく笑われる。心配はしてねーけど面白くねーんだよなぁー。
マジでエルザのヤツ、
「何考えてんだかわかんねー」
空に危害を加える気は無いと思うけど、どんな意図を持って帰ってこいって言ってるのかもわからない状況は苛立たしい。だからと言って、確認も取りたくない。
俺はうろなが好きで、空が好きで。
確かにエルザもアリアもキョーダイのようなもので好きなのは変わらない。
それでも、空に対する好きは特別だから空に何かあればエルザでも許さない。
ふと視線が合う。
エルザが空に何か囁いて、空がポッと顔を赤くして視線を軽く落とす。
にまりと得意げなエルザ。
何吹き込みやがった!?
「マタネ。ソラさん」
ようやく帰るのか……あ。
「一人で大丈夫か?」
「ミツル、イルから平気」
ミツル?
「グリフのチョイスしたセキュリティグループの一人ねぇ。今日はオフなの」
そんなのいたっけ?
「ほらぁ、グリフもランバートも相続放棄してるから、ね」
わかるでしょ。と笑われる。
「あー。最近、うろつきの幅が減ったから余裕出たのか? 鈴音ちゃんと一緒ならさほど暴走もしてないだろうし」
「ふふ。戻ってきたら、シーの職は用意されてるし、彼女として収入の心配はないのよ」
ねっと空に向かって笑うエルザ。
だからその気はないのに。
「シーも、ふてくされないの。まだ、みょーなことは吹き込んでないわー」
人の頬をぺしぺし叩いたと思ったらにまにまと笑って軽いターンで身を翻す。ついでに包装されてるヘアピンの包みを回収してドアへむかう。
「じゃ、まったねー」
◇◆◇
「じゃ、まったねー」
そう言ってお店を出る。
不満そうなシーの表情とかはあまりいただけない気がする。
「エルザ」
店を出て数歩で声をかけてくるのはミツル。
ミツル マサト
『庭』の警備部門の人間だ。
現在、二十代半ばで六年前からこのうろなに住んでいる。大学に通ったりバイトをしたりして馴染んでいる。日系なのか、純粋な日本人なのかまでは知らないが、町中にいて違和感はない。
仕事の一環としてシーとチアキの動向報告もあるはずなんだけど、ミツルの報告書は抜けが多い。確かに私がチェックできる情報だけが私に届くから仕方ないのかもしれないけど。
「ミツル。まった?」
「いんや。それにしても苛めてやるなよ」
「苛めてないわよ?」
「……」
なだめる口調に私がさらりと返せば、不満げに不審げに見てくる。
「あのままだとちょっとまずいわねぇ」
黙ったまま逸らすことなく、眼差しを向けられるので私が視線を逸らす。
「雰囲気はいいけどな」
そうね。
シーと彼女の空気はいいものだったけどねぇ。
でもね、
「睨まれたわね」
「反抗ぐらいするだろ」
「……わかってないわね」
イラっとする。
わかってるはずなのにわかってないミツルの様子は癇に障る。
「あの子が反抗するわけないでしょ」
そんな意識の芽は育つ前に摘む。それがあそこのやり方だ。
ミツルも心当たりがあるのか黙る。
あの子の役割は『好意』を示すこと。『受け入れる』こと。『判断する』こと。
『嫌う』ことや『否定する』ことは含まれていない。
嫌わない。否定しないはずの子が矛盾なく『否定する』にはどんな理屈が働いてるのかわからない。
「でーもーさーぁ、エルザー」
「なぁに? ちょっとその喋り方フールっぽくて嫌いなんだけど?」
「シーと、マンディとどっちの指揮権が上なんだ?」
不満は無視ってこっちに確認を促してくる。
わかってる。
それでも、その指揮権が自覚なく揮われるのならば止めるのが私の役割だ。
「シーね。その次がチアキ、同位でグリフ様一手下がってマンディは微調整担当ね」
そう、指揮権、上位者はシーになる。ミツルのわかってるんならいいんだとばかりの態度が余裕くさくて気に入らない。
「なら、上の望むことを叶えるのが末端の役割だろー。だから、俺もお姫様にないがしろにされつつ頑張ってるさ。ま、心配なのはわかってるさ」
「ねぇ、マサト」
ちらりと黒い瞳が私を見下ろす。
「重なることのない常識の基準がぶつかる時、こころは保てる? 彼女はそれを支えれる? あの子は乗り越えられるの?」
私にはその姿が想像できない。
それなら、悩まずにすむように、苦しまずにすむように何も見なければいいと思う。
「でもさ、一番の指揮判断を下すのはお姫様なんだよな」
「ミツル?」
「いんや。まっすぐ送る?」
「散歩したいわ」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より青空空ちゃん、『無限回廊』立神上総店長をお借りいたしました。




