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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014春
439/823

4/2 散歩と不安

 桜の花が少し咲きはじめた春先。

 エルザはアメリカに帰って行った。

 ピンク色の石の花のヘアピン。二つお揃いで、片っぽは花ちゃんに届けてくれると言ってくれた。

 自分から『(ガーデン)』の話はしない。それは凄くもどかしい。少しでもママや花ちゃんに近づきたいのに届かない。


「ママ。花ちゃん」


 パパの新しい奥さんはキャリアより家庭を愛する主婦だ。自分の子供がいないのもあって私のことをとても可愛がってくれている。でも、自分の子供ができたらどうするんだろうと思う。

 いらないって言われていじめられたりするんだろうか?

 継母だし。

 ハンガーにかけてある制服をちらりと見る。

 一年生の三学期に転入したからまだ新しく綺麗だ。

 そして、もうすぐ二年生がスタートする。

 クラスはどうなるんだろうと心配になる弱さが嫌になる。

 日生兄妹の従兄弟とはどうも相性が悪いのか、うまくいかない。そばにいるとムカつくのも事実だけど。

 最近は仕方なさそうな表情でだけど、山辺さんがフォローしてくれたりもする。

 身綺麗にしておくのは基本だと思うのには同感。

 場所と外見に似合う装いは大事だと言われるのは少し驚いた。

 そういう事にはこだわってるようには見えないから。

「かわいい装いは好きよ? でもこの髪なら、少し伸びてきたけど、まだボーイッシュ系の方がいいし」

 そう言ってくせの強い髪をクシャリと混ぜる。

 どうしてかまってくれるのかがわからなくて反応がうまくできない。

 そんな私を山辺さんはじっと見る。

「たいした理由はないわ。自分の精神状態もいい加減落ち着いてきたし、余裕があるから手を差し伸べてるだけ。貴女のためじゃなくて自分のためね」

 正直、彼女の言い様も気に入らない。

 芹香ちゃんとは普通に喋ったりしている。

 あの家は『ガーデン』に近いはずで、ママと花ちゃん両方が意識していたはずで。そして彼は『ダメ』と言った。あの兄弟は『庭』においてそれぞれに何らかの役割をもっているはずなのだ。詳しく知らされることのない立場だった自分が嫌だ。




「いってきます」


 スニーカーをはいて家から出る。

 今日はどこに行こうなんて目的はない。

 特に誰にも会いたくない。


 どうして、犬に押し倒されてるんだろうと思う。彼女は必死に犬を遠ざけようとしてくれている。効果はないけど。

 犬を抑えてくれたのは小柄な少女。犬を抑えられなかったのも同年代っぽい少女。

 公園で三匹の犬をそれぞれが抑えながら自己紹介した。

 犬を抑えれなかったのは鴫野(しぎの)尋歌(ひろか)ちゃん。おじいさんの動物病院のお手伝いをするために両親の元から飛び出したらしい。ロングヘアをポニーテールにまとめている。

「ごめんね。大人しい子達だから大丈夫だと思ったの」

 そう謝ってちょっと落ち込む尋歌ちゃんを軽い口調で慰めるのはショートカットの中島(なかしま)千歳(ちとせ)ちゃん。犬を抑えてくれた少女だ。彼女は母親の再婚をきっかけにうろなに越してきたらしい。

 名前にちゃん呼びをいきなりしたフレンドリーさがある。

「うろなはショッピングモールもあって都会だからうーれーしーいーー」

 はしゃぐ姿がちょっと幼いなと思っていたら中学入学らしい。年下だった。驚いた。

「えっ?」

 一番小さい尋歌ちゃんが今年三年生と聞いて驚いた。

『ちっちゃい』

 千歳ちゃんとハモる。

「ちっちゃくない! まだ伸びるもの!」

『え〜?』

 千歳ちゃんと視線を交わす。だって、

『ねぇ』

「どうしてハモるのよ!」

 繰り返してハモる様に苛立ったらしい尋歌ちゃんがビシッと私たちを指差す。


「尋歌ちゃん。信兄が心配してたよ」


 聞こえてきた声に尋歌ちゃんが振り返って笑う。

『涼維君』

 なぜか今度は千歳ちゃんと尋歌ちゃんがハモる。

「こんにちは。千歳ちゃん。えっと、美丘さんもこんにちは」

 ぎこちない口調に首を傾げる尋歌ちゃん。

 そわりと千歳ちゃんは視線を泳がせる。私は苦手視されてるの知ってるしなぁ。

「お散歩ぐらい問題なくできるのに信弘君も心配性だわ!」



『えっ⁉︎』



 尋歌ちゃんのつよがりな発言にまたしても千歳ちゃんと私はハモった。じとりと恨めしげな尋歌ちゃんの眼差しに苦笑する日生従兄弟・弟の方。

「むぅ。なんとかなったもの」

 足掻く尋歌ちゃん。私と千歳ちゃんがいたからね。

「宇美ねぇと一緒に来ればいいのに」

「お邪魔虫にはあんまりなりたくないもの」

 ぷぅとふてくされる様子が低めの身長も合間って子供っぽい。

「二人とも気にしないと思うけどなぁ」

 そう言いつつ、私が撫でてた犬のリードに手を伸ばしてくる。

「ありがとうね。美丘さん」

 少し名残惜しい気もするがリードを渡す。

「この子は私が連れてく! 涼維君と一緒ならなれない道で迷うこともないし!」

 リードを受け取ろうと伸ばされた手を拒絶して千歳ちゃんがそう言って笑う。

「暇なら明日にでもショッピングモールでも案内してよー」

「なんで?」

「だってまだ知ってる人少ないし、ママもお父さんも引越しの後片付けで忙しいもん」

「手伝わないの?」

「遊んでなさいって言われるー。遠縁のよしみで遊んでよ」


 遠縁。親戚の子なんだ。


「やだよ。それに妹達と約束があるから無理」

「むー」

 ぽんぽんと会話は進む。

「尋歌ちゃん。帰ろっか」

「うん。遊んであげたらいいのに」

 親戚なんだから。という印象のある言い方だ。

 尋歌ちゃんの発言に日生従兄弟・弟は困った笑顔を見せる。

「人間関係むつかしーの。美丘さん、またね」

 ひらり振られる手。

 一緒にいたくないのがよくわかる態度だと思う。


「ええ。さよなら」


「愛菜ちゃん、遅くても新学期に会いましょうね」

 尋歌ちゃんが笑う横で千歳ちゃんも頷く。


「またね」


 素直な笑顔がかわいい二人だった。


「マナちゃん、お散歩?」

「おかあさん」


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