3/14 募るばかり
マシュマロとクッキーを水色のハンカチに包んで白いリボンで結ぶ。
ウサギのピンバッチを結び目に刺し留める。横向きのウサギの頭部は澄ました感じで蝶ネクタイが可愛いと選んだ。
「乙女チックなチョイス?」
千秋の声にちょっとムッとする。
だって、空が受け取ってくれて笑ってくれたら絶対可愛いと思うんだけど……、似合わないのかなと不安になる。
「空ねぇなら喜んでくれると思うよ」
それでも一旦、過った不安は消え切らない。
晩にそういっちゃんと約束をして別れる。
ホワイトデーに『グラボ』か『外付け』を贈るっていうのは珍しいんじゃないかと思う。それでいいのか? そういっちゃん。
聞いたら『メモカ』でもいいとは思うと返ってきた。
ちょっと謎な彼女だと思う。それとも渚ちゃんみたいなタイプ?
「ハーイ♪」
軽い声で呼び止められて振り返る。
最近、女の子の知り合いがまた増えている気がする。
「久しぶり」
息が止まるかと思った。
ホワイトデーの商店街はそれとなく浮ついた感じ。
やっぱりイベント日だからかなとは思う。
なんとかレイちゃんにバレンタインチョコ(あれは結構凝ってた)のお返しは渡せたし空へのお返しはちゃんと形が崩れることなく手元にある。
時間はまだある。
店の入り口が見える壁にもたれて少し、ぼーっとする。
一本とはいえ商店街から外れているからできる待ち方だと思う。
待つ時間は結構好きだ。
どっちかと言うと空を待つのが好きだ。
待っている時間はいろいろ考えてしまって、浮き沈みは有るけどすれ違うのも、出てくる空を見れないのも嫌だし、気分は盛り上がるかなと思う。最近では出てくるとまずこっちを見て笑顔を向けてくれる。その時の笑顔を見るのも好き。服装やその表情を想像しつつ待っている時間は楽しい。
「早すぎじゃないか?」
横から声をかけられて驚く。
「す、澄先輩」
びっくりした。
気がついていなかったコトになのか待っている様子になのか、にやりと笑われる。
玩具屋の悪魔。マゾ清水の後継機高原直澄センパイ。
商店街住人だし、俺がここで待ってるのは既に定番。なんとなくからかわれ慣れてきてるのが心境的には微妙だ。
中学の時は部活の先輩後輩だったなと思う。
高校ではなんとなく続ける気にならなかったんだよなぁ。剣道けっこう好きだったのは好きだったんだけど。
田中先生とバレンタインデートは潰れたって聞いてんだけど、「ホワイトデーのセンパイのご予定は?」なんて聞くのもなぁ。
それにどっちかって言うと澄先輩は千秋の範疇だしなぁ。
交渉とか、ちゃんとしたやり取りは内容わかってるそういっちゃんがメインでやってくれてたし。業務連絡はできるけど。
ぐるり思考していて気がつく。
ああ。
空に関わること以外が少し、面倒になってきてるのかな?
「待つ時間も堪能中。澄先輩だって先生の出待ちのためならするっしょ?」
そう告げれば、もちろんと胸を張る。
「今日のデートこそ成功させる!」
そのままの流れで宣言する澄先輩。
「好きな相手と一緒にいる時間ってすごく大切だもんなー。俺的には一緒に過ごせればそれでデート成功。喜んでもらえるのが一番だけど、どんな表情も見てたいよね」
うんうんと俺もあいづちをうっておく。
困り顔も少し拗ねた表情も心配そうな表情も明るい笑顔も全部好きだ。
「意外とノロケるな」
意外そうに言われた。
ノロケ?
「え? 素直にそう思うから、だけど?」
だって空が可愛くて魅力的なのは基本設定だよ?
仕草も表情もかわいくて愛おしい。
好きな相手を理解したいのも、独占したり、自慢したいのもおかしくないよね?
あれ?
何か違う?
うーん。
「じゃあ、澄先輩もココで田中先生への愛を語ってみるとか?」
好きな相手への愛が募って仕方ないって言うんなら聞くぐらいならできる。
「ココで語ってどうなるんだ!」
「思いがより募る」
と、思う。
あ、あとは澄先輩なら、周りにネタにされるかな? でもきっと、それって商店街あげての応援になる気がするから利点はあるよね。
「好きなら年の差なんて些細な問題だよね」
空と俺の年齢差なんて、ないようなもんだけど、澄先輩はそうでもないし時にハードルなんだろうなと思う。
「ガンバレー」
ちょっと棒読みで言ってみる。
「心がこもってないな」
突っ込まれて頷く。
「だって、俺は空が出てくる瞬間を楽しみに待ち時間堪能してたの邪魔されてるしー」
それとも、先に俺が空への想いを連ねる?
「し、鎮くん」
え?
声に視線を巡らせれば、そこには恥ずかしそうに俯き気味の空がいた。てれてれ姿が可愛いと思う。
って、
出てくる瞬間見そびれた!!
「澄先輩、ひでぇ!!」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より青空空ちゃんを
『うろな担当見習いの覚え書き』から高原直澄先輩を
『精霊憑きの新天地?』より如月レイちゃんを
お借りいたしました。




