3/3 受験勉強
「一応、うろな高校も受けるんだ?」
「学費的に一番良いのはココだしね」
勉強するのが嫌いで高校に行かないって言ってたわけでもないし。
母子家庭で貯金とかもない。
お兄ちゃんだって好き勝手。
耳にする数々の失敗談。
将来なんてどう転んでも暗そうで、やる気が失せる。
『変わってみない?』そう差し伸べられた手を取るのはこわかった。
リスクはある。
それでも得るモノはあるからとスタートできる下地を作ってくれた。
「知ってる人のいないお嬢様学校とかきっつそう」
本当にね。
「山辺さんのお兄さんの彼女さんが通ってるらしいから、うろ高ダメだったら紹介してくれるって言ってくれてるわね」
二学期からは勉強は千秋さんや鎮さんに時々時間をとってもらって教えてもらっていた。
普段、好き勝手遊んでる隆維と涼維がちょろちょろ見てきて邪魔に思うこともある。
今もそう。
「あんた達は高校どうすんのよ?」
「むこうの学校勧められてるかなぁ。父さんも高校時代は日本にいなかったし、そのスタイルに合わせた形になるんじゃないかな?」
「へぇ。意外」
ある程度のルートが決まってるんだ。
「むこうで気兼ねのない友人を増やす最後の機会だし、そっち系の引継ぎをするつもりなら手を抜くのは良くないしねー」
そっち系?
隆維は置いてあった消しゴムを弄びつつ、手を振って見せる。
「まぁ。むこう行ったらまず、一ヶ月は家庭教師に囲まれての学習会が決定されてる感じー? 予習はしてるけどね」
「家庭教師って」
「各専門講師をお願いしてのマンツーマン。楽しいよ?」
「生徒は二人だけどねー」
それ、楽しいの?
スゴく気が滅入りそう。
二人が不思議そうな表情をしていたんであろうわたしに笑いかけてくる。
「本人が好きな分野のことをわかりやすく教えてくれるからさ。興味も持つし、聞けば教えてくれるし、一緒に考えてみたりで楽しいんだよ」
「せんせーたちもあの頃は相手がちびっ子っていうのもあって楽しさ重視だったのかもだけどねー」
「おかげで知識の蓄積は楽しいことだと思えたんだからイイよなー」
きゃあきゃあと二人で戯れる。
日生兄妹はけっこうその考え方が浸透している。
だから、知りたいことがあって教えることができるなら。とばかりに教えてくれる。
千秋さんと鎮さんは『成果』という『対価』を求めるスタイルで、隆維と涼維は『説明して満足』して完結するタイプ。
「はい。千鶴ちゃん」
ホットミルクが置かれる。
「千秋あにー。俺達のはー?」
「自分でいれろ。邪魔しないの」
千秋さんに断られて、涼維の方が立ち上がる。
「二人は嫌いな勉強とかないの?」
二人が視線を交わす。
「やっぱ、あのへんはなぁ」
「うん。ちょっとねぇ」
苦手科目があるらしい。
「へぇー。なぁに?」
『教養』
はい?
「マナーとか楽器とか、ダンスとか話術とか、あとは適度に護身術やレジャースポーツ系も含まれる感じー?」
「スポーツ系はまだいいんだけどねー」
『ねー』
やっぱり、こいつら嫌いだ。
「邪魔しないのって言ってるだろ?」
「えー。緊張をほどいてやってるだけだってー」
緊張はなくなったけど、ムカつきが残るわ。
「町の外の学校だけど、行けるんだから無理しない程度に頑張ってね」
「千鶴ちゃん、わかんねーとことかだいじょーぶか?」
ひょっこり顔を出した鎮さんが折紙で作った雛人形を置いてくれる。
パタパタ足音が響いてやって来た芹香ちゃんが手を腰にあてて仁王立ち。
「お受験前に騒いで邪魔しちゃダメなんだからね!!」
『お前もな』
「ちらし寿司の残りでおにぎり作ってきたんだもん。がんばってね」
すこし、イビツなおにぎりにほっこりした。




