3/1 不安感。
三月一日は卒業式。
よく晴れたいい日。
騒いで、はしゃいで、帰ったら花と愛菜の父親が来ていた。
告げられたのは花とその母親の死。
瞬間展開が理解出来ない。
ただ、また『大丈夫』って言ってくれた存在が消えた。
セシリアママも波織ちゃんもサマンサちゃんも、いなくなった。
他にも『大丈夫』って言ってくれていなくなった人はいる。
花はよくわからない。
死んだら遺体は献体として研究で使われほとんど残らないと誇らしげに語っていた。
その成果が実を結ぶのならそれは自分が生き続けることだと言っていた。
あっけなく、おちた千秋を見下ろす。
「ごめんな。後遺症は出ないから」
千秋の携帯をいじる。
何人かにメールの送信。
送信後きっちり履歴を削除。
そっと眠る千秋を撫でる。
こうでもしないと撫でることも許してくれない。
どうしてうまくいかないんだろう。
そのまま、寝室に運ぶ。
どちらの部屋でもなく、体調の悪い時に使う隔離部屋。
別室に移動して監視カメラを切る。
部屋に戻っても、千秋は眠ったまま。
「変わるのがこわくて変わらないのがこわいんだ」
髪に触れる。
「空ねぇのことが好き。千秋のことが好き。たぶん、言われたからじゃなくて好きなんだよ? それでも自分でそれが本当なのかどうかがわからない」
いてくれるなら、そばにいてくれるならコワくないかもと思う。でも、いなくなるんだよ。
セシリアママもいなくなった。
波織ちゃんは、俺に『大丈夫』って言いにきてくれて別れた道のむこうで動かなくなった。
ずっとそばにいてくれたサマンサちゃんも(特に喋ったりしないけど、まぁ蛇だし)なにかに引き裂かれた。
壊れていく。いなくなるのがコワイ。なんだかどんどん酷くなってる気もして。
空ねぇに何かあったり、しない?
距離をとるべき?
離れなきゃいけない?
どうしたらいいんだろう?
でも、そばにいたい。
「どうしたらいいんだろう。千秋」
「まずは反省しよう」
「おじさん?」
おじさんが音もなく、いつの間にかいた。
「まず、話し合うことからはじめるのはできないのか?」
話し合う。
千秋は聞いてくれるんだろうか?
「でも、うまくまとまらないんだよ?」
それに、
「これ以上千秋に嫌われたくないしなぁ」
「これ以上? それ以前に別に嫌われてないだろう?」
嫌われてない?
好かれるような行動がうまくできない。
千秋はわからない。
仲良くしようとしてもすぐ怒って、ふてくされてわからない。先に行って一度も振り返ってくれない。手を出しても振り払われる。文句は早い。
嫌われてると思う。再確認すると沈む。
ぽふりと頭を軽く抑えられる。
「人の本音は伝えなければ伝わらないぞ?」
「おじさんは隆維と涼維に伝えるべきだと思う」
「どっちつかずなものでね」
少し言い返してみれば切り捨てられる。
「おじさんも大丈夫だと思う?」
「なにがだ?」
「わかんねぇ」
撫でられる。
「ゆっくりで、いいんだ。欲しいもの。守りたいものが増えて、怖いと思うのはわかるから」
「なくしたくないんだ」
千秋も空のそばもこの町の居心地のよさも。
枯葉色の眼差し。
「優先順位は持ちなさい。どうしてもの時選びたいものがなんなのか、その時、切り捨てられる順序を持ちなさい」
自分の手を見て首を傾げる。
両方はダメ? 全部はダメ?
「守って大切にして余力があれば他に手を伸ばせばいい。そんな力もないのにあれもこれもと想いを乗せれば全て失われる」
ちから。
「それに、一方的じゃダメだよ? ちゃんと言葉を使わないとな」
「ねぇ、おじさんの一番はこの町にある?」
ため息と小さな笑い。
「この町は帰る場所。執着はある。それでも一番の大切は、別。だな」
その言葉は静かだ。
ああ、俺達は切り捨てられる位置にいるんだ。
ねぇ、千秋。
「いろいろとな、おじさんは間に合わなかったんだ。今だってうまく立ち回れない。『庭』のことは迎えにいくのが遅くなったと思ってる」
つっと空気が冷たくなる。
「結論から言えば、彩夏はお前たちを手放すべきだった。育てられるわけもないのに。助けを求めるべき場所に助けを求めることができなかった彩夏の判断ミス。正しい判断もできずに行動力だけがあったから、こうなったんだろうな」
「母さんは悪くないよ?」
母さんがいたから千秋と一緒にいれたし、芹香がいるし、そうでなければ、空にも会えない。
千秋と空。
選べなんて無理だと思う。
ああ。会えなければ悩まなくても良かったのかなぁ。
「誰しも自分の正しさで生きている。どの視点で見るかで、いろいろと変わるんだ。普遍で絶対のものなんか存在しないんだよ」
セシリアママは間違えないよ?
セシリアママとの約束。なんだったかなぁ。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より青空空ちゃんをお名前のみでお借りしました。
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/




