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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
425/823

3/3 頭痛。

 頭が痛い。


 喉が渇く。

 

 赤い何かが視界の端をよぎる。


『ちあき』


 遠いところから聞こえるような声。


『風は止まっちゃダメなのよ。進むのをやめて止まれば澱むだけだから』


 知らない女性の声。


『ちあきはかぜなのぉ』


 甲高いような子供の声。続く笑い声。


 頭が痛いからものすごく耳障りだ。


『違うわよ。風であそぶ木の葉だわ。迷うことはないわ。何とかなるもの』

『わかんなーい』

 たぶん、親子の会話。所々音がねじれてるような気がする。

『好きよ。いろんな好きがあるの。ちあきは好きになること。を捨てないでね。忘れちゃだめよぉ』




『ねぇ、ちあ……き……』



 ブツっと音がして音が途切れる。

 耳が痛い。

 少し間をおいて、音が変わる。

『ありゃあ、耳だいじょーぶ?』

 痛いに決まってる。

「ばぁちゃん、今の何?」

 相手は近畿在住日生のばぁちゃん。

『ああ、千晶ちゃんの忘れ物のテープを再生してみたんだけど、切れちゃったわ。劣化してたんだね』

 切れたって。

「そのテープどうすんの?」

『もう再生できないし捨てるわ。ゴミやからねー。少なくともちーちゃんが聞けてよかったかな? たぶん、千晶ちゃんと千晶ちゃんのお母さんの会話テープ? 再生できたのが奇跡っぽいね』

「そう、なんだ」

『そっち、春休みか、テスト休み入ってるの? 今日お雛様で月曜日だし、もうじき七時半だけど?』

 七時半?

 月曜?

「ええ?!」


『ちーちゃん、マイクそばで悲鳴あげんな』

「あ。ごめん」

 きっと、そばにいたら米神をグリグリされた気がする。

『ま、朝ならガッコ行っときー。またなー』

 ぷつっと通話が切れる。

 相変わらず唐突。

 イヤホンを外して定位置に置く。

 妙な位置に置けばゼリーとジェムが悪戯したり飲み込もうとしたりしてあぶないから。


 頭が痛い。


 三月一日にうろ高で卒業式があり、家に帰ったら美丘氏がいて、『美丘母娘』の死を告げた。

 けっこう落ち込んでいる鎮を慰めるウチにバート兄がメールを送った『美丘花』がいたはずなことに気がついた。

 だから、マンディ義姉さんに尋ねるか、その息子ゲイルにそれとなく話を振る必要性を感じて……。


「千秋兄、学校行かないのー? 朝ごはんー」

 隆維と涼維の声。

「まだ風邪気味ー?」

 風邪気味? 

 ああ、頭は痛いか。

「いや、大丈夫。ちょっと寝過ごしただけ。お姫様たちは?」

「さーやおばさんが散歩連れて行って今ご飯中ー」

『ねー』

 体を起こせばくらくらとめまいと鈍い頭痛がする。


 月曜日?


「大丈夫かー?」

 鎮の問いかけがどこか遠い。

「平気。逸美迎えに行ってくるから先、行っといて」

「俺が行こうか?」

「ん、いい」

「そっか。顔色、悪いから無理すんなよ?」


 逸美を迎えにいって、そのまま、登校する。


「調子悪いのー?」

 声をかけてきたのは菊花ちゃん。

「ちょっとねー。転寝のせいか、風邪気味?」

「えっ!? うつさないでよー」

「ちゃんと、抵抗力つけとけば大丈夫じゃないか?」


 たわいない会話。


 いつもどおりの授業。(ほとんど記憶に残っていない)

 帰り間際に教室に顔をのぞかせたのは鎮。

「帰ろうぜ?」

 兄弟で一緒に来ることがあるのはチビたちの見送りも兼ねるから。

 一緒に帰ったことなんかはうろな二年目からはない。

 ちらりと視線を向ければ菊花ちゃんが視線をわざとらしく逸らした。

「大丈夫か?」

「大丈夫」

「熱は、ない。みたいだな。それでも調子悪そうだし、病院、寄るか?」

 ぴたりと額に手をあてられて覗き込まれる。

 なにこの恥ずかしい構図。ありえないから!

「平気、だって言ってるだろ」

 払えばくすんだ赤が視界をよぎる。


 夢で見た赤はもっときれいな緋だった。


「帰るよ。一緒じゃなくても平気なんだけど?」

「でも、調子、悪くするの珍しいから心配だし、荷物ぐらい持ってやるからさ」

「二人で、帰って何が楽しいんだか」

「えー。俺はけっこう楽しいし、嬉しいけどな」

 二人分の荷物を軽々と持って笑う鎮。

「しずめー」

「なんだー。千秋ー」

「美丘花、残念だったな。だからさ、その妹、見てるの辛いんじゃないか? 記憶の花と本当に似てると思うんだ。芹香は友達でいたいのかもしれないけど、もちろん、それを止める気はないけどさ、しずめは見てたらキツクないか?」

 そこを告げれば、芹香も少しは動くだろう。

「ばっかだなぁ。千秋。同じ町に住んでるんだよ? それを避けるなんて不自然だ。愛菜ちゃんを芹香が怯えることなく受け入れてるんなら問題はないだろう?」

 答えがいつものようにかわされる。

「だからさ」

「うん」

「お前はどうなんだよ!」

 どうして一度はパニックするぐらい混乱するのに。

 解決なんかさせずに何度となくフラッシュバックとかも起こすくせに。

 問題なんかないかのように振舞うんだよ。


「俺?」


 不思議そうに動きを止めるな。

「愛菜ちゃんに思うこと?」

「それもだけど」

 それだけじゃないんだよ。

「そうだねぇ、花やお母さんである美丘博士に流されず、自分の進みたい道を見つけられたらいいよな」


 その綺麗ごとがムカつくんだよ。


 ぁあもう。



「僕の日曜返せ」








 頭が痛い。







「明日には抜けるから大丈夫だよ」



 本当に頭が痛い。

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