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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
424/823

3/1 卒業式

「紬ちゃーん」

「ああ。もう、どうして麻衣子が泣くの? 私はウチから通うんだからしょっちゅう会えるでしょう」

 しかたない子ね。とばかりに肩を抱き慰める本日の主役。

「ご卒業おめでとうございます。加藤先輩」

「ありがとう。愛子ちゃん。ホワイトデーには配ったチョコのお返しの回収に行きましょうね。同じ義理チョコ配るならやっぱり就労者狙いよねぇ」

 ふわりと笑顔の中に垣間見えた刃は黙殺あるのみ。

「高原兄弟に押し付けた分は直兄さんに期待かな〜♪ 澄兄より稼ぎ良さそうだしー、本命いなさそーだしぃ」


 黙殺、……あるのみだ。


「うわぁ。わかるけどねー。はっきり言っちゃだめよぅ。菊花」

 紬ねえさん、わからないままでいてよ。

「そーおぉ? でさ、いっつーと仲直りできてないの?」

「……してないわね」

「もう! せめて友達としてくらい仲直りしときなよぉ」

「難しいのよ」

「先輩ぃ」

「ぁあ。栞ちゃんまで泣かないの」


 目の前は混沌(カオス)だった。

 麻衣子ちゃんと岡本さんが紬ねえさんにすがって泣きじゃくり、村瀬先輩がにこにことお祝いの花束を預かっていたり、菊花ちゃんが逸美先輩との仲を尋ねていたりした。


 三月一日土曜日。


 そう、この日はうろな高校の卒業式だった。

 そしてあの中に入ることはできず、デジカメで撮影中だ。

 料理部で作ったバレンタインチョコは商店街のおじさんたちやじーさんたちに配られたのだ。直樹さんにも渡してたらしいのは今聞いた。

「英。ブサイクに撮ったら、怒るからァ!」

 麻衣子ちゃんがぽろぽろ泣きながら無茶を言う。

 写すなってことかなぁ?

 ああ、何処かで見た光景。具体的には三年前の中学校の卒業式だ。


「早川君も混じっといで。撮ってやるよ」


 後ろから伸びてきた手にカメラが取られた。

「鎮先輩?」

「ぉう」

「あの、千秋先輩は?」

 すっと手で指し示される。

 そこにいたのは逸美さんを引っ張ってきている千秋先輩だった。

「卒業おめでとうございます。加藤先輩。ほら、逸美も」

「お、おめでとう。紬」

 本来なら、逸美先輩と紬ねえさんは同学年になるはずだけど、逸美先輩のひきこもりグセで一年を二回やったらしい。

 気まずいとこもあるだろうなと思う。

 カメラ片手に軽く手を振る鎮先輩。

「ありがとう。千秋君、鎮君……逸美」

 く、空気が痛いっ。

「んじゃあ、料理部で集合写真なー」

 空気の重さを無視した鎮先輩の声。

「って、菊花ちゃん」

 鎮先輩に声をかけられた菊花ちゃんがウェットティッシュを麻衣子ちゃんと岡本さんに配る。

「ほーら、鎮の奴ならブサイクを撮ることも辞さないからせめて鼻水拭いときなさいね」

「ぅうー。鎮最悪〜」

「えー。麻衣子ちゃんひでぇ〜」

「ひどい顔ですってーー!!」

「言ってねーよっ」

 軽く追いかける麻衣子ちゃん、逃げる鎮先輩。

 ふっと、誰かが笑って、そこから笑いが広がった。


 ここだけじゃなく、見回せば他にもそういう光景は広がっていた。


 笑顔で、涙で、緊張の面持ちで。


 紬ねえさんとは同じ商店街に住んでいるから会えるけれど、高校を卒業すると町を出たり、会えなくなる人も増えるのだと思うと少し寂しい。


「しんみり中?」


「うぉ! 宗」

 声をかけてきたのはカメラを持っていた宗だった。

 つい上げた声を気にした風もなく、適度に風景や周囲を写真に収めていく。

「撮ってんの多くね?」

「写真はあんまり撮り慣れてないからね。マトモなのが少しでもあるといいな」

 まぁ、向き不向きはあるよなー。

「とりあえず、初生卒業式♪ 入学式は参加したことあるけど、卒業式ははじめてで新鮮」

 はい?

 そう言えば遠足とか行ったことないようなこと『シアン』が言ってたっけ。設定だと思ってたけど。

「ふーん。修学旅行は?」

「行ったことない。最近はヘマ踏むこともなく、いろいろ参加できてるから実は少し楽しみ」

「もしかして文化祭とかも……」

「休まず出席できたのははじめてかな。だからそろそろヘマを踏みそうな気がしないでもないから、期待は、しないようにしないとなぁ」


 え。

 なんだろう。

 そんなこと聞いたら、かわいそうに思っちまうだろ。


 …………


「勝手に心の声をあてるんじゃねぇ!! ほだされたりしねぇからなっ!」


「うん。そうだねー」


「小学生でも行けるうろなハイキングにでも一緒に行くか?」

「パス」

「躊躇なく断るなぁああ!」



「仲がいいのはわかったから、写真撮影するから早くこっち戻ってきなさーい」

 菊花ちゃんが苦笑交じりに手招きしてる。

 確かに紬ねえさんと学校で過ごす時間は終わったけど、実際、みんなで会えるし、きっと、変わっていくのを実感する前に新しい出会いができる。

 料理部に後輩を作ることも考えないとだしなぁ。

「別に仲良くないから!」


 もう少ししたら、あと一月で二年生になる。

 あっという間の一年間。

 来年は平和な一年になるといいなぁ。



 そして、新しい場所で先輩達が楽しめればいいと思う。

『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』より

高原直樹さん直澄君を話題にお借りいたしました。

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/


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