夢告げる音色
新しく、引っ越してきた町。
知らない町。
『うろな町』
緑も多く、空気のきれいな町。少し行けば海だって近い。
一緒に住むのは従姉妹の柊子さん。そのねぇやさんのさなえさん。
宗一郎おにいちゃん、天音お姉ちゃん。
三春叔父さんと出。
恭一郎にいさんと公志郎にいさんはいない。
宗一郎おにいちゃんとはあんまりそばにいなかったから少し上手にやっていけるか不安。
あ、いるか、いないかよくわかんない北大叔父さん。
天音お姉ちゃんは今までを切り捨てるかのように長い髪を切り落とした。
恭一郎にいさんも、公志郎にいさんもいない。
それはすごく寂しい。
どうして、接点の少なかったおにいちゃんとお姉ちゃんとやっていかないといけないんだろう。
嫌いじゃないけれど、心細い。
新しい学校に行くのはいやだった。
前の学校は恭一郎にいさんも公志郎にいさん、天音お姉ちゃんも卒業した小学校。
途中で転校することになるなんて思っていなかった。
公志郎にいさんが会いにきてくれたのが嬉しかった。
それが初登校。
そしてその日、町役場の前ではじめて芹香ちゃんに会った時はびっくりした。
子供番組の思い込みの激しい子そのままに指差してくる変わった子だった。
気がつくと強引に明日の約束ができていて驚いた。
宗一郎おにいちゃんは芹香ちゃんのお兄さんや、役場の人たちに軽く頭を下げてから帰り道についた。
「大丈夫そう?」
ゆっくり聞いてきてくれるおにいちゃんの手を握る。
その次の日から、毎日のように芹香ちゃんと遊ぶようになった。
そうしていると気がつくと一緒に遊んでくれる中に隆維おにいちゃんや涼維おにいちゃんも混じり始めた。と、いうか、芹香ちゃんちの兄弟とも遊ぶようになった?
ああ。いいなって思ったの。
だから見てた。
うん、ちょっと、公志郎にいさんはやるしかないかもって思ったけど、おいておく。
そして聞いてみた。
天音お姉ちゃんは不思議そうに首をかしげる。
『男の子』になんか興味はありませんという表情で。
それはそれでいいと思った。
ゆっくりでいい。
この町に来て良かったと思える。
ステキな出会いがあったから。
中学校の先生達に日生のおうちの人たち、天狗さんのケイドロ大会で会った喋るハムスター。「ARIKA」のおねーさんたち。
時々寂しくなるけど、同じ匂いは芹香ちゃんも持っていて。
一緒にいたら大丈夫だと思った。
変化があったのは十月の半ば。
パパは時々見かけてた。
仕事中を邪魔する気はなかったから常にスルー。お仕事の入ってないときになら声をかけてくれるもの。
どうしてそうなったのかわからない。
芹香ちゃんは不機嫌そうに海を見ている。そんな芹香ちゃんに意識を向けない千秋お兄さんが少し不思議。
鎮お兄さんもどこを心配すればいいのかわからないかのように、戸惑いが揺らいでするりと冷たい感情が透ける。
視線が合えば優しく撫でてくれる。行動の不確かさを謝られているようにも感じる。
十一月になってまた、会えるようになった。
宗一郎おにいちゃんと鎮おにいさんは中学校の先生の結婚イベントに参加する関連で忙しくなるらしい。
遊びに行けばまた、普通に会えるようになった。
それがとても嬉しかった。
でもね、少しこわくなった。
ゆっくりで、良かったはずだったんだ。
それじゃダメなのかもしれないって、思った。
「好きなの」
「妹みたいじゃなくてね、特別がいいの」
見返してくる青はキレイだった。
困った表情をさせたのも知ってる。
でも、今、決まった相手がいないなら、誰かにその立場を奪われるのはイヤ。
芹香ちゃんや、のあちゃんだって恋敵にはなり得る。いとこだもの。血は繋がってないもの。それは、いやなんだもの。
天音お姉ちゃんのこと、見てるのは知ってる。でも、恋してない。
なら、私を見て?
貴方が好き。
私は貴方を求めるの。
年の差なんか気にしないでしょう?
だってこんなにちょうどいい。
きっと学校を卒業して大人の道を歩き出し、なれてきた頃に私をお嫁にしてくれるでしょう?
あなたのそばにいたい。
少しでもそばにいたい。
ふわりと落ちる髪へのキス。
ぱちりと瞬くとまぶたへのキス。
「ないしょだよ」
優しい笑顔は宝物。
いつだって、とっておきにかわいい私を見て欲しい。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』から清水先生と梅原先生のことを、
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
『うろな天狗の仮面の秘密』よりケイドロ大会のことを
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/
『うろなの虹草』よりハム太のことを
http://book1.adouzi.eu.org/n7486bq/
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』から『ARIKA』のことを
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
お借りしました。




