2/24 脱線中
晴れてるけど残ってる雪でなんか寒い
それとも心かな?
付き合いはかなり薄い。
なにか人に相談したいと思った時に心当たりがない。
菊花ちゃん達とは軽く遊ぶ仲で、そこまでの付き合いではない。
青空の?
心配かけたくないじゃん。
兄弟たち?
問題外。
バート兄にはできれば気がつかれたくない。
ノブ兄は今ちょっかいかけちゃダメだし。
健?
なんであいつに?
あ。
誰もいない。
「それでなんでウチで寛いでるんですか?」
エアコン完備だし、居心地いいから。
「まぁ気にしないで。宗一郎君。小学生時代の鎮の写真あげるから」
「あのですねぇ」
「ちなみに半泣きなヤツ」
「……」
ここで黙って、お茶が出てくる対応が何とも言えない。
それでも天音ちゃんと鈴音ちゃん情報では今、彼女っぽい相手はいるらしいし、ソウイウのではないらしい。
「宗一郎君はさ、妹ちゃんに恋人ができることにどう思うの?」
「恋愛は自由だと思いますよ?」
市販のお菓子も出てくる。
ものは冬季限定品。結構流行に流される方?
「隆維と付き合ってもいいんだ?」
じっと見てくる。
「どこまでの自由恋愛かはわかりませんけど、本人たちの意見が噛み合っているんならいいと思ってますよ」
結構おおらかだ。
もう少し、神経質かと思っていた。
「お互いクセ強いですからね。ズレた時は少しこわい気もしますけど、二人とも思考派だし、問題がなければ良いなとは思いますよ?」
思考派なんだ。
「うちの妹はなんだかんだ言っても両方武闘派でもありますけどね」
武闘派なんだ。
思考する武闘派ってこわくね?
市販のお菓子以外にも、適当に物が並べられる。
匂いは結構素材系。味付けは薄そうだ。
「食べるものに無関心じゃ良くないですよ。身体に負担かかりますから」
イラっとする。
「クリスマス準備の時、海さんと揉めていたでしょ?」
それだけ言ってお茶を飲む宗一郎君。
「鎮先輩が心配するんですよね」
さらっと自分じゃないアピール。
「本当にあいつが心配とかするのかなぁ」
「してますよ。あれはあれで本当なんです。一番大切に守りたいと思われてるのは本当ですよ。空さんはその中でも別枠位置を獲得しかけているんだと思いますけどね。千秋先輩が切り捨てれば、それが望みならと、深く考えることなく、切り捨てられ返されますよ」
なんで宗一郎君に説明されてるんだろう?
「距離感がすごく難しいんです。一つ間違えたら、簡単に先輩は切ってしまうんです。だから、観察をきっちりして対応に注意しなくてはいけないんです。千秋先輩は無条件に受け入れられているので気がつきにくいと思いますよ? それで観察していることをストーカーとか言われるので困りますよね」
いや。ため息つきつつ言う以前にそれは間違いなくストーカーじゃあ?
鎮にかかってくるメールや電話、着信音で相手判別はストーカーぽい。
きっと他にもいろいろやってそうだし。
軽くその気性は引く。
英から聞いたぞ。ちょっとマジ泣きはいってたからな?
え?
ノーコメントダメ?
否定する気にはなれないんだけど。
認めておくのもアレだし、話題逸らしていいよな?
「そういえば、名前の由来とか、やっぱあるのかな? 兄妹で近い響きだなと思うけど」
ちらりと一瞬視線をおくられ息を吐かれる。
気まずい。
「天音と鈴音は母が静音だったのに因んでます。僕と兄は双子だったんですけど兄弟なら序列をつけるような名前が山辺の家では普通なんですが、父が反抗して、どっちが一番でもいいだろうと、恭一郎と、宗一郎とつけたらしいです。公志郎の名前の由来はわかりませんが、少なくとも類似性は考えてつけたんじゃないかと思いますよ?」
へぇ。生まれ順の序列より、公平性を考えた感じかなぁ?
宗一郎君はひとつ息を吐きなおし、
「ちなみに天音と鈴音の名付け親はじーさまで兄弟のほうは父ですね。じゃあお返しに千秋先輩の名前の由来は?」
「母さん達を捨てた産みの母親の名前」
「すみません。むっちゃくちゃ重いんですが」
なんか、ドン引きされた。鎮のストーカーに。
「うん。おじさんも知ってたら名づけ時に殴ってでも止めてたって。残念ながら海を挟んでたから無理だったらしいよ?」
思想じゃ何も届かない。
「それは残念でしたね。じゃあ、鎮先輩のほうは?」
お前、本命はそっちか?
「発音、しにくそうだったから」
「はい?」
「だから、実の父親サイドが親権とか馬鹿なこと言ってきた時、すんなり名前も呼んでやれないトコにやりませんって感じ? ちなみにアメリカではひたすら『シー』としか呼ばれてなかったかな。鎮」
「それはそれでひど!」
「まぁ、それが本当の由来なんだけどさ。母さん達を引き取ってたばぁちゃんがさ、『秋はきれいな実りの季節でとても美しく尊い。美味しい季節。それを千回繰り返しても適わない愛しい命』って、スッゲー恥ずかしいことを言ってくれてさ。で、気が向いたらなんか麺類を料理してくれるんだ。味付けは塩コショウ一択でね」
スパゲッティとかそばとか、うどんとかラーメンとか。全部汁なし。茹でてあるだけかそこに焼いてあるかだけしか手間の入ってないもの。
そう、鎮の名前もなにか捏造してちゃんと褒めてはいたっけ。
あのばぁちゃんは手が早かったなぁ。撫でるのも殴るのも早かった。
理解できない言葉を使うと殴られるんだよね。
あとチーズをかけても殴られる。
においがイヤだって。
ただ、距離をとれば連絡はくれなくなった。
でも、電話すれば変わらず、本当に変わらず喋ってくれる。
何年はなれていても昨日別れたばかりのように。
「どうせなら隆維と涼維みたいにばぁちゃんに名前付けて欲しかったかもなー」
血縁のある祖母の名前は『千晶』引き継いだのは音だけで、名前自体はよくある名前かもしれない。
「あんまり幸福でない人生だったと思うの。だからその分、千秋は幸せになってね」
そんな母さんの言葉。
『不運』を背負えと言われたかのような気分を覚えている。
「不幸に生きてたと思ってた人が幸せだった場合、それって、その人に責任がなくても疎ましいなぁ」
「千秋先輩」
「ん?」
「それ恨んだり憎んだりした場合、相手の性格によっては悦ぶと思います」
ごめん、ドン引き第二弾なんだけど?
そしたら咳払いされた。
「だって、それだけの労力をその人にかけるんですよ? 愛憎なんて表裏一体です。愛される資格がないならせめて嫌われて憎まれて忘れられないでいたいと言うのもまた人情だと思います」
「ごめん、そこまでの対象は現状いないから理解できない」
わかるのはストーカー気質コワイ。
「えっと、鎮に嫌われ……て、……ごめん。お願い。答えないで。俺の精神が持つかどうか自信ない」
「嫌われてるというのはそれだけの感情を向けられているということです。無関心よりはいい。あと、相手の感情を揺さぶることができるという優越感が発生することもありますよね?」
「お茶、だよね!? ノンアルコールだよね?」
宗一郎君、俺が悪かったから戻ってきて!?
おかしい。
話題はどこで脱線したんだ!?
「未成年の飲酒はよろしくないです。ただ、アルコール成分の多いチョコは食べました」
チョコで酔うな!
「酔ってません」
「酔っ払いはみんなそう言うんだ!」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』から青空海ちゃん空ちゃんを話題でちらり借りております
「鎮先輩の写真……」
「わかったから!」




