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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
414/823

2/19 しあわせのかたち

 大雪の中、拾ったのは黒髪の少女。

 雪に足を取られて、慌てていた。

 そしてそれは昨年の末あたりに会った少女。

 過るのは、ダメになったお気に入りの服と傘。

 あの日は雨で今日は大雪。

 ロクでもない日にしか会わないみたいだ。

 今日は大雪だって以外どうってことない日だ。前は不意打ちの墓参りに付き合った後で気が立っていた。今日はそうでもなかった。

 だから、送ることにした。女の子だしね。

 聞けば目的地は中央公園。そこに待ち合わせ人物がいればよし。いなければ駅に行くとのことだった。


 最初から駅に行けよ。


 彼女との会話はどことなくイラつきを覚える。

 幸せそうだからかもしれない。

 あの日は彼女も墓参りだったらしい。

「生まれた時にはもう亡くなってたの。おばーちゃんたちとね、ひいおばーちゃん。それでも夏とか、何かあった時は報告に行くの。おかあさんがおばーちゃんたちはきっと見守ってくれてるからっていうんだもの」

 そう言い、にこりと笑う姿には迷いがない。

「会ったこともないのにわからないだろうに」

 呆れ気味にそう言えばキッと睨んでくる。

「だって、おかあさんは愛してるもの。家族を愛し、見守っていくことを教えてくれた人たちなの。死んだぐらいで愛は消えないの」

 バレンタイン後の興奮が少し残ってるんじゃなかろうかと思う意見を言ってくる。

 家族として愛しあっているんだと思う。

 ただ、第三者によく臆面もなく語れるなとも思う。

「おかあさんがちあきおばーちゃんやおばーちゃんからもらった愛はね、ちゃーんと伝わってるんだよね。だから、頑張って期待にこたえていきたいんだ」

 はにかみながら、少女が放った言葉にすとんと、背中を氷が落ちて行く感触が錯覚される。

「死者は何もしないんだ。見守ってなんかいやしない。そう感じるのは錯覚だね」

 少女はキッときつく睨んでくる。

 あんまり家族愛に関して否定され慣れてないんだなと思う。

「そんなことないの! たとえ、手が届かなくても、心は届くんだから!」


 ……バカらしい。


「ちあきおばーちゃんはね、優しかったの。だから、私たち以外にもお墓に会いに来てくれる人だっているんだから! 可愛らしい花を供えてもらえるんだから」

 ああ。

 なんだか、確信ぽいよ。

 でもさ。

 ああ。そう。優しかったの。

 だから自分の子供を捨てたんだ。

 愛されて幸せだったんだ。


「ぁ。おかあさん!」


 一旦立ち止まりわからないって表情でキョロキョロする。

 そこには鎮がいた。

「千佳」

 母親と思われる女性がのんびりと少女を呼ぶ。

「おかあさん」

 迷いなく抱きついて優しく撫でられて笑う。

 そして、母親に自分の主張の正しさを問う。

 何か笑顔で俺に言葉を振ろうとした鎮を引っ張る。

 たぶん、鎮はまだこいつらがなんなのか気がついてない。

 母親の表情が曇ったことに少女は気がつかない。

 この女は知っている。

 俺は興味ないと吐き捨てる。

 驚く鎮に雪を言い訳にして引っ張る。

 わかっていない表情が苛立たしい。

 だから思ったことを告げる。

 それなのに困った表情で鎮はあいつらを擁護する。

 知らないのだから仕方ないと。

 あいつらの味方をする。

 傷つければ、僕が傷つくのだからダメだという。

 そして彼女たちを心配する。



 苛立たしさが増す。


 綺麗事が煩わしい。

 笑って「兄弟は仲良くって言われるよね」と言ってくる。

 言われたから、指示されたから。そんな理由で注がれる感情?


 自分が口に出したことのトゲに鎮は気がついていなくて、迷いなく僕に好きだよと伝えてくる。

 理解できてると思ってた。仕方のない奴だと思ってた。

 差し出されている手は取るべきなのかどうかがわからない。




 ◆◇◆



 雪が降る。


 静かに降り積もってゆく。

 一月に本をくれた家の人からメールが来た。

『うろなにいるの。会えるかな?』

 そんな内容のメール。

 待ち合わせは中央公園。

「こんにちは武藤さん」

「こんにちはー。元気だったー?」

 明るい人。大げさ気味の仕草は受け入れられてるようで好きだ。

「もちろん。じーさんも元気ですか?」

 あそこのじーさんは元気だけど、年だし、最近ひどく冷え込むし、心配。

 武藤さんは明るく笑う。

「伝えとくわー」

 母さんたちより少し年上で俺や千秋より小さな子供がいる。

「雪かきしようとして埋もれないようにって伝えてください」

 茶化すように告げると軽く笑われる。

「ええ。でも気が向いたら遊びに来てやって。おじーちゃん、鎮君のこと気に入ってるの」

 ああ、あの蔵の蔵書は魅力的だ。

 でも、

「ガイジン嫌いなんだろー」

 髪に文句つけられたからなー。今年は。

「驚いただけかなー」

 そういいつつ苦笑する。

 この人はどこかおじさんに似てる。

 黒い髪黒い瞳。空と同じ色。

 伸びてきそうな手をなんとなく避ける。


「おかあさん!」


 黒髪の少女が駆けて来る。

 そっと距離を取る、少女の来た方向を見ると千秋がいた。少女は立ち止まり、俺と千秋を目を見開いて見比べる。双子、だからね。それにしても久しぶりな反応。

「あら、千佳」

「おかあさん」

 のんきに構える母親に迷いなく駆け寄る姿はかわいらしい。

 子供っぽくて可愛いなと千秋に話を振ろうとしたら、軽く腕を引っ張られる。

「おかあさんは言ってたよね。ちあきおばーちゃんは優しくて素敵な人で、ひぃおばーちゃんと一緒に家族を見守ってくれてるんだって教えてくれたもんね」

 同名?

 少なくとも千佳ちゃんは千秋の名前を知らないというか、知ってたら同名で片方死者なわけだから気まずいよな。

「……すてき?」

 そばにいたから聞き取れる小さな掃き捨てる嫌悪の声。


 ちあき?


「実際に知らないし、関係ないわけだしどうでもいいよ。マナイタ」

 見下しポーズで言い放つ姿はちょっと悪役っぽい。


 千佳ちゃんがきっとふり返る。

 可愛いなと思う。

「雪酷いし、帰るよ」

 千秋はそう言って俺の腕を引く。

「それじゃあ」

 武藤さんに軽く挨拶だけして千秋に付き合う。

 雪がひどいから送った方がいいかなとも思うけど。

 黙ったまま歩く千秋は確実に不機嫌で。

 話題の振りように困る。

「幸せだったんだろうね。千佳ちゃんは会ったこともないのにあんなに好きだって迷いなく言えるんだから」

「千秋?」

「幸せなのはいいことなんだろうなって思うよ?」

 声はどこか切なくて。

「鎮、僕の名前の由来、覚えてる?」

 尋ねられて首を傾げる。

 覚えちゃいるけど関係性が見えない。

「母さんたちの産みの親だったっけ? よくある名前だよな。チアキって」

 俺なんか発音むずかそうだからこの名前だって言われたし。

「でさ、その人のお墓、うろなにあるんだよ。ムトウチアキさん、ね。うん。よくある名前だよね」


 え?


「幸せだったみたいだよね。よかったと思うけどさ。聞きたくはねーんだよ!」

 どかりと雪だまりを蹴りつける。

 転びかけて、軽く続く舌打ちと悪態。支えが間に合ってよかったよ。

「千秋」

「あーもうイラつくし最悪ー」

「千佳ちゃんは来年から後輩だから」

 しかも苗字変わってうろなに住むから四月から。

「なにそれマジ嫌なんだけど?」

「千佳ちゃんにあたっちゃダメだと思うぞ?」

「……わかってるよ。ただ、面白くないんだ。ちあきおばーちゃんは子供がいなかったからおかあさんを実の娘のように可愛がって愛してくれた素敵なおばーちゃん。なんだってさ」

 それは、流石に聞きたくない、かなぁ。

「母さんや、おじさんの存在って『ない』ことなんだよな。じゃあ僕らも?」

 それでも、どれだけ痛くてもさ。

「千秋、知らない子にそれをぶつけちゃダメだよ。誰だって告げられないことを正しく知ることなんかできないんだよ?」

 だから千佳ちゃんは悪くない。傷つく必要はない。

 それにそんなふうに傷つければ千秋が傷つく。

 ヒトを傷つけるのは自分を傷つけることだと思う。

 だから。

「傷つけたら、それ以上に傷つくのは千秋だから。ぶつけちゃ、ダメだよ?」

 悔しい?

 ねぇ、千秋。

 彼女は知らずに口にした。

 千佳ちゃんはいい子だと思うんだ。

 愛情を注がれてまっすぐに。

 きっと知ったら傷つくんだと思う。

 悩むと思う。

 そのときにこう告げればいいんだよ?



『知らなかったんだから仕方ない。君は悪くなんかなかった』


 『知らなかった』の免罪符。


 その上で、『気がついてしまってついあたってごめん』と、謝罪を封じればいい感じになるのかな?

 知らずに幸せに過してた彼女に罪はない。

 幼い子供を守りたい親の愛はそれが正しい。

 それにそこに固執するなら、他の不安不満がなかったとするのも早計で人はその人の数だけ幸福と不幸がある。

 だって俺は今を不幸だとは思わない。

 与えられる情報は痛いものでも、それでも、千秋もいる。芹香や隆維・涼維。庇ってやりたいみあとのあ。

 そう小さなみあとのあに影を落とすことを伝えたいか? できることなら隠して知らずにいて欲しい。そう思うから、そう思えるからそれは突きつけてはいけないことなんだと思う。

 おじさんはそのへん容赦ないから、のあは自分が血の繋がりない子供だと知っている。両親が死んでいることを知っている。のあは愛されてることを知っている。その強さはいとおしい。


 そうは思うのに、それでもふっとよぎった思考はきっと彼女達を傷つけるであろうモノで。申し訳なく思う。

 人の幸せを否定なんかしたくない。

 それでも、祖母は本当に幸せだったのかと疑問が浮かぶ。

 ロクに人となりを知らない俺でも思う。

 『優しい人』そう評されるヒトの裏側。


「千佳ちゃんも、千歳ちゃんも傷つかないといいなぁ」


 信じてる家族に隠し事されると辛いらしいから。

「僕は?」

 静かに不満を湛えた声。

「隠し事があってもさ、嘘があってもさ。俺は千秋が好きだよ? 大切だと思ってる。きっと隆維や涼維、芹香もおんなじ。そうするように言われたのがきっかけでも、それだけで続けられるものでもないしさ」


「……セシリアママに言われたから?」


「それもあるけど、みんな言うじゃないか。兄弟なんだから仲良くしないとって」


 家族なんだから。

『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』から青空空ちゃんをちらりお名前がりしております

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