2/12大雪
芹香VS隆維で喧嘩勃発。
二人してカラオケルームへ向かう。(防音完備なので)
ごく稀にやるのだが、今年ははじめてだ。
刺々しく歩く様に鎮兄が心配する。
止めに行こうとしそうだからそれは止めておく。
今止めてもこじれるだけだし。
鎮兄と千秋兄がいる状況で喧嘩しない。特に鎮兄。理由は『兄だし』とため息交じりに吐き出されるのは内緒だ。
芹香も隆維も似たもの同士だからなぁと思う。
まぁ二人の喧嘩は聞いてると怖いので知らない状況が一番いい。
それに喧嘩というよりはお互いの確認だ。
なんか、芹香の方が俺より隆維を理解してると言い放つ日が来るんじゃないかとイラつくけどね。
それをこぼせば隆維は笑ってないないと手を振る。
それでも不安になるんだよね。
そこは隆維はわかってくれない。
ふと気がつくと鎮兄がいなかった。
千秋兄を見ても興味なさげに参考書のページをめくるだけ。
みあとのあはミラちゃんと一緒にシアちゃんと戯れている。時々、ゼリーとジェムが突撃して笑いを誘っていた。
ランバートさんは学校だ。
ココアを持ってリビングを出る。
向かうのは上か下。
上な気がした。
階段を登る。
あまり使われていない廊下や階段は冷たい空気で冷える。
屋上のドアを開けると雪で真っ白だった。冷気がざぁーっと開いたドアから屋内に滑り込んでいくのが見えた気がして慌ててドアを閉める。思ったより大きな音が響いて、開かなったらどうしようと思わぬ心配が過る。
「だいじょーぶ。開かなくなっても非常階段も、ロッククライミングコースもあるからさ」
ロッククライミングコースは絶対イヤ。
雪が風に乗って降る。
エアコンの室外機の低い音が風の音に混じって低く響く。
それでもなんだか雪が音を吸い込んでいるように静かだ。
「鎮兄。風邪ひくよ」
「んー?」
言われて気がついたようにパサパサとつもり気味だった雪を払う。
「うりゃ。雪兎だ」
差し出された手の上には楕円形の塊があった。
「雪饅頭じゃん」
言い切るとショックを受けられた。
でも、目も耳も付いてない時点で兎じゃないよ!
半分ぐらい冷めてしまったココアを差し出す。
「頼りないかなぁ?」
呟きに首を傾げる。
冷たい手が髪をかき混ぜる。
何を言ってるのかがよくわからない。
「空ねぇに頼りないって言われたの? ないよねぇ」
思ってもそんなダイレクトに言うようなねぇちゃんじゃないし。
きっとそう言う部分には母性本能くすぐられてイイ感じになるんじゃないだろうかと想定する。
もしかしてそんなことぐずぐずと屋上で悩んでたの?
今までも思わないでもなかったけど、かなりバカじゃないの?
「え? そう、思われる要素があるってことか?」
え?
それ絡みじゃなかったの?
「ご、ごめん。どこにかかってるのかよくわかんなくってさ」
あ。しゃがみこんだ。
覗き込むとじとりと恨めしげな視線。
小さな非常灯の灯りでかろうじて見える光景としては怖い。
「部屋、戻ろうよ」
ふと思う。
「まさか、だけど、芹香と隆維のこと気にしてるんなら気にしないほうがいいよ? あれは個性のぶつかりあいだから」
二人とも自分の進めたい方に進まないと臍を曲げるワガママな気性の持ち主で、その上二人ともどこか支配的だ。千秋兄もその気性は見られるけど、その気性は基本的に他者に向けられることはない。自分に不都合がなければ周りは放置派だ。父さんに近い。
そう言う意味では鎮兄はどうなんだろう?
うん、考えたことなかったなと思う。
仕切ろうとしていいように扱われている感じ?
あ。しっくりくるしっくりくる。
「個性のぶつかり合い?」
「そ。ふたりともかなり仲はいいんだよね。それに二人ともお互いの引き際は心得てるから翌日に引きずったりしないしね」
あ。正直に言ったら落ち込んだ。
「知らなかった」って、そりゃ二人ともその辺は気遣ってるから。
あれ? 声出てた?
泣きそうに頷かれた。
「ご、ごめん。鎮兄」
放っておけない。
そうだ。鎮兄はそんな感じ。
千秋兄とは違う。
千秋兄に放っておけないなんて感じない。
多分、隆維や芹香が抱いている鎮兄への気持ちもここじゃないかと思う。
細くて脆い。
何がとは言い表せない何かがそんな印象を与えてくる。
その印象を感じた瞬間、呆れる。
鎮兄は兄弟の中で一番強い。
まっすぐにする。と決めたことを行う。
誰よりも一人で平気であるように振る舞う。
それでもたぶん、一番、弱さを持ってるんだ。
青空空ちゃん
を『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』から話題にお借りいたしました。




