2/9 会話
放課後の自宅。
晩御飯もお風呂も終わった。課題や予習復習?
終わらせたわ。
「花ちゃん。シーに会ったよ」
布団の中でタブレットに囁く。ヘッドホンから声が届く。
『優しかったでしょう?』
花ちゃんがコロコロと笑いながら聞いてくる。
花ちゃんの時間に合わせるのは大変。
だから報告が遅くなっちゃった。
「うん。でも、愛菜はダメって言われたの。花ちゃんはいいのに、どうして?」
私の何がダメなの?
理不尽だ。
『優しい、からかな。愛菜はダメなのかぁ。そうかぁ』
「花ちゃん?」
花ちゃんの声が懐かしむようにしみじみと私がダメだという言葉を噛み締めている。
『キスしてくれた?』
「うん。ほっぺにしてくれたわ」
新たな問いかけに不安が散る。
『唇でも耳や首筋でもないのね』
答えに返るのは残念そうな声。不安が返ってくる。
「花ちゃん?」
『ティセリアと仲良くなれそう?』
「無理かもしれない。チアキに近づくなって言われたの」
布団の中で軽く手を握る。
『そう』
「花ちゃん?」
幻滅された?
呆れられた?
『なぁに? 愛菜』
「私、出来るよね。ママや花ちゃんのお手伝い、出来るよね?」
『……。もちろん、愛菜がそう思って動いてくれるのは嬉しいわ。私は思うように動けないし、ママも最近思わしくないもの』
ホッとっする。でも同時に突き落とされる。
「ママ、大丈夫?」
『ええ。きっとうまくいくわ。たくさん、頑張ってるもの』
希望を掛けた言葉。
私だってママのそばにいたい。でもわがままはダメだわ。できることを見せないと。
「うん。私、頑張る。シーとティセリアと仲良くなればいいんだよね。頑張るよ。花ちゃん」
『ダメよ』
「……え?」
『チアキに止められたのよね?』
「……うん」
『じゃあ、ダメ』
「チアキのせい?」
『愛菜。シーはチアキが大好きなの。愛菜が私のことを好いていてくれるように』
噛んでわかりやすく砕かれた言葉。
「……チアキに嫌われるのもダメなの?」
『そうよ。三人に嫌われちゃダメ』
「むつかしいわ。わかんないよ」
『……いいのよ。愛菜。誰にだって無理なことはあるもの。とても、難しいわ。愛菜にはまだ、無理だったのよ』
「待って! 花ちゃん。愛菜、出来るよ。ううん。やる。やれるから、大丈夫だよ。ちょっと時間かかっちゃうかもだけど、頑張るから! やれるよ?」
無理じゃ、ないわ。
『……できると信じてるわ。でもね、愛菜が心配なの』
「大丈夫! 大丈夫だよ! 愛菜は大丈夫なんだよ」
ドアがノックされうっすら開かれる。
慌てて口を塞ぐ。
声が大きくなっちゃった?
「愛菜。まだ、起きてるのかい?」
そっと伺うような声。
「あ。パパ。あれ? もうそんな時間?」
私はそっと布団から顔を出す。
「もう寝なさい母さんも心配している」
「はぁい」
あんな女お母さんじゃない。
こんな場所。
愛菜の家じゃない。




