2/5 お昼時
「カッコよくいましょうね」
「んー? そういっちゃん?」
「ですからね、先輩カッコよくいましょう」
コツンと額を小突かれる。
「スタイルは大事だと思うんですよね。僕の理想の先輩でいてくださいね?」
「俺は、友達がいいんだけどなぁ」
にこりと笑う姿はノワールの姿を思い浮かべる。
「無理ですよー」
断言しなくてもいいじゃねぇか。
「かっこわるい?」
「揺らいでますよね。かっこよくないです」
まっすぐな視線が少し痛い。
「先輩。揺らぎの元は、なんですか? 空さんですか? だとしたら先輩はどうしたいんです?」
視線にどこか棘がある。
すぅっと視線が強くなる。
「ねぇ。先輩。空さんが他の男の人と笑顔で歩いてたらどう思います?」
え?
「友達とか親戚とか。あることだろ?」
「先輩の知らない人に知らない場所で『好きだ』と告げられていたならば、どうします?」
そんなこと、
「空さんはこの場合告白を受ける側ですからね。ない状況とは言えませんよ」
でも、
「ねぇ、先輩。手放したくないなら、ちゃんと自分で考えなきゃダメですよ。危うく崩れていく先輩もそそりますけど、やっぱりかっこいい先輩がいいです。逃げたら道全部潰して僕の望む方向に追い立てますから。好きに逃げてくださいね。あと、そろそろ腕が痛いです」
ちょ、なにそれめっさ怖いよ。そういっちゃん……。
「手、離してくれませんか? それとも怒ってます?」
笑顔の視線の先は腕、俺の手がそれを掴んでいた。
慌てて放す。
「ご、」
「謝礼はいらないです。お昼、ご馳走様でした。教室に戻りますね」
「謝礼はねぇよ」
さっさと教室に戻ったそういっちゃんを見送り階段にちょっと座る。
どうしたいのかなんてわかんねーわ。
そういっちゃんとの定まった距離感はまだ変化はあるだろうけど、つかず離れず一定が保たれていて居心地がいい。
と言うか怖い発言が最近多い気がするんだけど、そんなに俺がかっこ悪いのか、はたまた新たなキャラ作りかどっちだろう。
どっちに転んでも少し、うんかなり嫌な予感がするんだけど、気のせいかなぁ?
そういっちゃんの望む方向。それは教えてくれないからわからない。
昨夜も千秋に心配されたしなぁ。
俺の望む方向。
それは今。
今があればいい。
前も先もいらない。
『かっこよくない』
ゆるくくるんだ言葉。
俺が俺なら別に後はどうでもかまわないとか言ってくる。
俺を見てるのか何を見てるのか時々、うーんすっごくわかんねぇ。
『理想であれ』
それは重いセリフだと思う。
つーか無理。
無茶言うな。
ノワールにしろ総督にしろ、三春さんにしろ、いざ付き合ってみるとむさくさ要求が高いんだ。
必死にやって
「及第点だな」
「まぁ、最低限かな? 今後の修練しだいですよね」
「基礎が辛うじて間に合ったか」
そんなコメントしかもらえなかったのは初めてだ!
総督なんてため息つきながらしかたなさげに言ってきたんだ。
それとも俺が要求を満たせないくらい能力が低かった?
貸してくれた施設の人でそういっちゃんの遠縁だと言う人が苦笑しつつ、
「お前ら鬼だ」
って言ってくれたのが救いだった。
何かの稼動テスト・耐久チェックモニターとしてのバイト代を後日支払われて驚いた。
疑う俺にひらりと提示された契約書は覚えのあるもので。
とりあえず、妙に疑わず、性善説を信じることにしておいた。
俺がどうしたいか?
空を傷つけたくない。
空を手放したくない。
なにもなくしたくない。
「かっこ悪いのはよくねぇよなぁ」
俺は先にいける?
先に行きたい?
ほんとは
留まっていたいんだ。
空ちゃんお名前お借りしてます。




