1/27 帰り道
帰宅ルート、少し前を歩くうちのクラスの編入生美丘愛菜。
喋ってる相手はうちの長兄。(たぶん)
柔らかな笑顔とエスコート。
場慣れしてない日本人には結構効果的な軟派法。
「隆維?」
「しっ! もう少し観察だ」
見て取れる空気は親しげで、首を傾げる。
女子中学生の耳元に顔を近づける男子高校生。微妙なシチュエーションだなぁ。
「隆維君のクラスの?」
「うん。一見、天音と近い無口根暗系ぽい感じだけど、なー」
「……そう」
「あー。天音はけっこーサバサバ系だろ? どっちかって言うとばっさり漢前系。ヤルことはやるだろ? ノリだっていい方だしさ」
視線は兄貴と美丘。
美丘の腕が鎮兄に絡む。なれなれしいと言うか、どっちかって言うと咄嗟にって感じ。何を言われたんだろうと思う。
「浮気?」
涼維が首を傾げる。ちらっと見ると表情は少しムッとしている。
状況だけ見ればわからなくもないけど、鎮兄にそんな心の甲斐性はない。
広く浅く甘い振る舞いを振りまくが、ソレは壁の向こう側。苦さを含む本気は本命専用。
あれー日生んちマジ一途系?
相手決める前はやっぱ遊びとか経験しといた方がいいのかなー?
いや、今はそんな思考はどうでもいい。観察だ観察。
「美丘はマッドな感じ。渚ねぇとは違って一本ないっぽい。天音よりクラスでも喋るぜ? わかりません。できません。の中にちょっと周囲をバカにしてる空気が混じってる感じの女。卑屈を演じてるような感じ。天音とは全然ちげーよ」
涼維の疑問は心で答え、天音と美丘の差異について続ける。美丘はたぶん自信家だよなぁ。
鎮兄を落とす気なのかなぁ? 無理だろうけど。
美丘が分かれ道で別れる。
鎮兄はそこで止まって見送っている。
そのまま、こっちを見て手招き。
あ。暴露てた。
「浮気ー?」
涼維が不満そうに責める口調。
「ちげーよ。話してただけだって」
「だってさぁ」
少し苦笑してふてる涼維の頭を撫でる。口調は軽い。
「彼女のお姉さんが幼馴染なんだよ。その話聞いてただけだって。あの子にそんな意味はないよ」
「お姉さん?」
最近年上キラーの噂もあるよね。鎮兄。
「花っていってね、体が弱いからずっと入院中なんだけど、とても頭のいい子だよ」
懐かしむような声は若干甘さを含んでいてそこに向ける好意が透ける。いい子ってことは年下?
「鎮さん、体の弱い人には過保護になるのはその花さんの影響ですか? 鹿島先輩とか、如月先輩とか」
天音がスッと割り込む。
それを受ける鎮兄の表情は不思議そうなものを見る色が濃い。
「過保護? 普通、だと思うけど?」
俺達の想いと視線はひとつだったと思う。
絶対過保護だって。
自覚なかったのか。
「そー言えば天音ちゃんはバレンタインどうするのー?」
違う話題が差し込まれる。今の話題。うろなの話。
お互いに昔に触れないのは暗黙のルール。
それでも、そこに触れなければ進めないとも思える。
「まだ何も考えてないです」
へぇ。
「天音は手作り派? 購入派?」
「去年は学校のお友達とブラウニーを作って交換したけど。バレンタイン時期ってそう言う講座とか多いし」
講座!?
そうくるのはちょっと意外だ。
「前の学校ってバレンタインのときは小学生?」
「小中高とエスカレーターだったから」
私立かぁ。
「女子校とか?」
「ううん。共学」
プチ天音情報をゲットしつつ歩く。そういっちゃんの住んでるマンションがビーチよりらしいのでこっち経由で帰ることが週の半分くらいある。
夕方五時まで帰ってくるなはいまだ健在らしい。
鎮兄が「友チョコか~」とか呟いていた。
うまくいけばいいと思う。
ひとつの掛け違いがすべてを変える。
過去の影響は今に影を落とす亡霊。
先が見えないのは今しか見たくないから。
未来を見るための苦い踏み絵。
踏み込むのはこわい。
垣間見える計算が。
千秋兄はきっと簡単に俺達を切ると思ってた。それは以前からの予想。
なんだろう。
鎮兄が俺達を切り捨てると考えたとき、千秋兄にされるより痛い感じがするのは。
「隆維?」
涼維の声。
「え?! 何があった隆維」
ぎゅうっと抱きしめられて視線を合わせられる。
「ん~? どうしたー、天音ちゃんからチョコもらえなさそうで悲しくなったかぁ?」
……それはない。
「ああ。鎮さんに甘えたくなっただけね」
横で天音の発言が聞こえる。
「そうなのか? んじゃ、さっさと帰っておやつにするか。ココア入れてやるよ。ミルク多めでなー」
わざと乱暴に頭を撫でられる。
「天音ちゃんも寄ってくだろ? 帰り、送ってくからさ」
ああ、もう、なんでもいいや。
青空空ちゃん、渚ちゃん
鹿島萌ちゃん
如月レイちゃん
お名前のみ話題で借りております♪




