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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
367/823

1/14 ひさしぶり

「こんにちは。お久しぶりね」


 その少女はうろ中の制服を着ていた。

 背中に垂らされた三つ編み。

 細縁の眼鏡。

 あまり覚えのないお姉さん。

 でもその声には覚えがあった。

「マナ?」

 美丘(ミオカ)愛菜(マナ)アメリカで時折交友のある人物だ。

 母親である美丘博士はDNAや遺伝について研究している。

 類似研究を進めていた母とも仲が良かったと聞いている。

 その関係で愛菜とはそれなりに同じ時間を過ごした。

 去年は帰らなかったけど、帰れば毎回会うぐらいには親しい。


 それは(ガーデン)でのお茶会(パーティ)


 毎回その場にはいろんな研究を進めている人達とそれを応援しようという人たちが集まる。あと、その伴侶や子供達もだ。

 お茶会の幹事はマンディ姉さん。

 大人達は難しい会話をして、退屈する子供達はそれぞれに遊び出す。

 愛菜も連れて来られた子供だ。

 真っ黒な髪と赤味の強い茶色の瞳。

 じっと黙っているとお人形みたいだった。


「ええ。今年の夏はお茶会に来なかったでしょう? ハナちゃんも会えなくて寂しがってたのよ?」

 花は愛菜の三つ上の姉。同一受精卵から生まれた年の離れた双子。ただ、花は体が弱い。三つ下の妹と体型が変わらないほどに成長も悪い。

 逆に言えば愛菜の成長がいいんだけど。

「そう。今年は気分じゃなかったの。予定もいっぱい入ってたし」

 今年は汐ねぇやべるべると過す時間を優先した。お兄ちゃんたちは寂しがりはしたものの反対はしなかった。

「残念だったわ。私はテスに会いにいったんだもの」

「花に会いにじゃないの?」

 花はアメリカの研究病院に入院している。セキュリティの関係でそう簡単には会えないはずだ。

 くすりと愛菜は笑う。

「あの子とはいつでも会えるもの。でも、テスと会える機会はガーデンパーティでだけだったから、こっちに越して来てよかったと思うわ。こんなに近くで会えたんだもの」


「テスじゃなくて、セリカよ。日生芹香」

「そう、芹香って呼んでいいのね。特別っぽくて嬉しいわ。もっと仲良くなりたいから」

「私と仲良く?」


 くすくすと愛菜は笑う。その笑いはどこか暗くて怖い気がする。

「私はね、知りたいことがたくさんあるの。調べたいことがたくさんあるの。だから、早くお茶会ガーデン招待状チケットが欲しいの」


「芹香。……花?」

 こわくて一歩後ずさったところに鎮兄の声。

 ポンと頭に手をのせられる。

 横にいるのは空ねぇ。

 って、空ねぇいるのに他の女の名を呼ぶな!

 愛菜はきょとりと首を傾げる。

「花は姉ですけど? 私は愛菜といいます」

「ああ。そっか。最後に会った時マナの方はまだ小さかったっけ。久しぶりだね」


 大きくなったねと愛菜を無造作に撫でる鎮兄。そのまま道に慣れてないなら明るいうちに帰るようにと促す。

 愛菜は少しぽかんとした表情で鎮兄を見上げ、それから頷いた。

「それじゃあね。芹香ちゃん、またおしゃべりしましょうね」

「うん。またね」


 愛菜を見送って振り返る。

「帰るかー」

 ぐりぐりと撫でられる。

「デートじゃないの!? 空ねぇも何とか言わないと!」

 空ねぇが優しいのに付け込んで自らお邪魔虫を入れようとするんじゃないわよ!

「それじゃあ、一緒に帰ろうね」

 ええー。それでいいのー?

 それでもやわらかい笑顔がほっとする。

 空ねぇは大好き。

「もう。お邪魔虫は馬にかっ飛ばされちゃえっていうのに」

 ホントに仕方ないんだから。

 空ねぇの差し出してくれた手を握る。

「あのね、初詣ではぐれた後酷いんだよ。バート兄ったらねぇ」

 .

 ……

 あれ?

 この状況って両親と子供。みたいな構図じゃない?

 うっわっ。ちょっと恥ずかしいかも。

 気がついてるわけがないと思いつつ、ふと見上げると鎮兄は愛菜の去った方向をじっと見ていた。

「災難だったよな。でも何度も聞いたぞー」

「いーのよ。空ねぇにはまだ言ってなかったもの。ねー」

 吐き出される声はいつもの通り。

 それなのに、ぐらりと何かが揺らいだような気がした。



空ちゃんお借りしております。


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