7/1 夜
夏の日差し。
荷物を引いた白いワゴンが見える。
「あー。今年は陸姉ちゃんたち、きたんだー」
「あいつら美女コンでねぇだろうなー」
「忙しいだろうから出れないって」
鎮が不満そうに鼻を鳴らす。
「まぁ、セリが喜ぶな」
「汐ちゃんね。前、よく遊んでたっけ?」
そんな何気ない会話をしたのは昨日の出来事。
「うざい」
不満そうな鎮の声。
今日の気分に合わせてか天気は悪い。
ため息がこぼれる。
刻んだ材料を圧力鍋に投入する。
「今日の晩御飯、シチュー?」
隆維の言葉に頷く。
「何落ち込んでるの?」
「サツキちゃんに告って振られたらしい」
「告ってない!!」
無責任なことを言う鎮に弟分二人がしみじみ頷く。
「あー。とうとう、飽きられたんだ」
ぇ?
ええ?
「きっと千秋兄の味よりいい味に出会ったんだよ」
「仲良くなるのにまず餌付けで胃袋掴もうって言うのが底が浅いよね」
頷きあう隆維と涼維。
非常にむかつく。
「お前らシチュー抜き」
「え」
「 ひっどーい。育ち盛りの僕らからご飯を抜こうなんて虐待だよ。虐待」
「と、いうか手伝おうって言う気持ちはお前らにないのかっ!」
「ねぇよ」
「うん。ない」
「ぇ? 千秋兄の趣味は奪わないよ?」
「まぁ、クトゥルフで、広めれば、何か反応もあるだろう。ちょっと外食してくる」
?
「うわ。鎮兄、鬼だ」
「鬼畜だ! 行ってらっしゃい。千秋兄は抑えとくよ」
お前ら三人が鬼だろ?
「真実を知るために出かけてくるぜ」
財布とレインコートを手に取る鎮。
「鎮兄? ごはんは~?」
「セリ。兄ちゃんはな。千秋が本当に振られたのかどうかをクトゥルフの清志さんに聞きに行くという使命があるんだ。もしまだ見込みがあるんならそこも含めて相談してみようと思ってるんだ」
「いってらっしゃーい」
「千秋兄ちゃん、圧力鍋シュンシュン鳴いてるけど火力弱めないの?」
真っ白になっている状況からその声で気がついた。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああ」
火を止めて、レインコートと傘を持って悪魔を追いかける。
「あ。再起動した」
「ごはんは?」
「なんか、レンジするかー」
後ろでそんな声が聞こえる。
知ったことかぁああ。
クトゥルフ。うろな町にある中華料理屋。得体の知れない何でも出てくる店として有名。
あとは店主の清志さんはとてもうわさ好きであるということも有名だ。
そして、鍋島さんが贔屓にしているという店でもある。
そんなところで鍋島さん関係のうわさを流そうなんて何考えてるんだ!
「清志さーん、関西風天津飯二つねー」
「了解したアル! いらっしゃいアル~」
注文が終わったところだったようだ。
「食うだろ?」
尋ねられ頷く。
店内はそれなりお客が入っているが、なんとなく知ってるような、知らないような人たちばかりだった。
「てんしんは~ん♪ 関西風~。なんか久しぶりだよなー」
「しずめ」
「ん~? 千秋も好きだろ? 関西風天津飯」
「好きだけど」
「サツキちゃんはアジの開き定食が好きらしいぞ」
「……」
「まぁ、店長の腕いいからなぁ」
泣きそうになる。
「まずいとでも言われたのか?」
さすがに小声で聞いてくる。
そういえば状況は話していない。
「うん、今日はなんか最初からいつもと違ったんだ」
「へぇ」
「今日のメニューは朝作りすぎたフライ物と高菜で巻いたおにぎりと紫蘇で巻いたおにぎりの二色おにぎり。デザートに桃のタルト」
「朝のあまりかよ」
「うん、やっぱりダメだったかなぁ?」
「いいや、お弁当メニューなんてそんなものだろう」
「なんだか、今日は、う~ん、そう、ぎこちなかったんだ」
ほんとうに、何かしちゃったんだろうか?
それとも、
「やっぱり迷惑だったのかなぁ?」
「うぜぇ」
小さく鎮の呟きが聞こえた。
「お待たせアル~」
「やった。清志さん最高! うまそう!」
「仲良く食べるアルよ~」
「「いただきます」」
しばらく無言で食べる。
「そう、いつもみたいに元気な『にゃー』って語尾もなくてさ」
なぜか鎮がむせた。
「すごく喋りずらそうで。いつもの感じよりよそよそしくて……」
「千秋」
「なに?」
「食ってる最中に湿っぽくなるのやめろ。ココでうだうだするなら明日にでもサツキちゃんに告ってしまえ」
「え?」
「いつも美味しそうに食べてくれるサツキちゃんが好きですってさぁ」
そ、
そんなに簡単に出来るか!!!
小藍さんの陸さん、汐ちゃん
寺町 朱穂さんのクトゥルフ&清志店長、鍋島サツキ嬢お借りしております。
きっと店内の客に筒抜けな会話。
サツキちゃん、鎮は確信犯です。




