1/10 夜
しょげている千秋を見る。
ベッドへの仔犬持ち込みが禁止されたせいだ。
今、仔犬たちは一階奥の部屋でデブ猫とシアちゃんの四匹でまとまって寝てるはずだ。
「千秋が行くんなら俺も本部屋行くからな。抜け駆け禁止だ」
「抜け駆けオッケーなのはノブ兄のところへの宇美ねぇの夜這いくらいって?」
「そーだよ」
釘を刺せばそんな答えが返ってくる。
他愛ない言葉のやりとり。
同じ部屋で寝るのって久しぶりな気がすると言うと千秋は夏に一緒に寝た暑苦しいとか言ってくる。
覚えてないって言えば、俺が熱を出してた日らしい。
覚えてねーよ。
「本読んでたのによく晩御飯情報程度で動けたね。いつも最終おじさんに取り上げられるまで動かないのに」
言われて、ちょっと苦笑する。
取り上げられるか区切りがつくかそうでない限り動かないと思われているらしい。
まぁ、外れてはないけど。
◇ ◆ ◇
ダンボールを部屋に引き摺り込んで、湿気ってないかの確認ついでにページをめくりはじめて、気がつけば周囲から音が消えていた。
手元からこぼれるページをめくる音だけが届く。
暖房のかかっていない薄暗めの室内。読む気はなかったのに止めれなくなっていた。
ドアがあく音には気がつかなかった。
遠くから『晩ごはんですよ』と声が聞こえたから「ん」と返事を返したと思う。
たぶん、少し間をおいて、もう一度『ごはん食べよ』と聞こえた。
さっきまでと違って本が読みやすくなっていた。あかりがついていた。
「暗いとこで読んじゃダメだよ」
届く声が近かった。
「そら……?」
全然いるだなんて思わなくて、没頭してたせいもあってか現実味がなくて、手を、のばした。
のばした手は握り返してくれる手に触れる。
つい、引き寄せて抱きしめる。
暖かくて柔らかくていい匂い。
「そら、ちゃん」
髪に落すキス。
暖かくて、ブレる鼓動。ずれた音がゆっくりと重なってゆく。
ズレた音?
目を開けるとマジ空ねぇがいた。
瞬間で読書モードが消え失せる。
自分が何をしたのかを振り返ると無意識すぎた!!
「空ねぇ?」
◇ ◆ ◇
「うん、まぁ。ご飯は食べなきゃね」
「あ、そう」
がん!
勢いよく扉が開けられる。
すぅっと入ってくるアルコール臭。
「うりゃあ♪ 寝てるかーぁ? 隼子ちゃんだぞーぉ」
寝てても起きるよ!!
「宇美ねぇー。痴女がいるんだけど捕獲を希望しますー」
千秋がドアに向けて声をあげる。
そんな千秋を無視してベッドにダイブする隼子ちゃん。
ちょっ!
ブラを投げ捨てんなよ!
「色気のないストリップー」
千秋、そういう問題か?
って、
「ああっ缶チューハイこぼれる。ここで振り回してんじゃねーよ。千秋、タオルあったよな? ああ、シーツにこぼしてるー。剥ぐから布団かぶってベッドからおりろよ」
「うっさぁーい。他に言葉はないのかー」
?
「ねぇよ?」
いや、なにが?
ふっと息を吐き出し、じとりとした視線。
「お局様との関係はどーなってるのよゥ」
「お局さま?」
だしだしと暴れるので缶チューハイを取り上げる。
「そーよぉ。すっとぼけてるんじゃないわよー。男っ気ないからって弄ぶのは許されないのだぁー」
右見て左見て天井を見て、千秋を見る。
「どうしよう? この酔っ払い」
って、完全傍観者エリアに移動してるのはなぜ?
「宇美ねぇも海ねぇも笑ってないで助けて」
青空姉妹(海ちゃん、空ちゃん)借りてます。
多分しばらく?
きっと尋歌ちゃんが覗かないのは空ちゃんが止めてる。




