1/7 定時制 喫煙者捕獲。
「まったく。驚いたよね。自分の参加費を弟にたかるとは」
「うん。財布見たら、五十円しか入ってなかった」
しみじみと頷くウル。こういうところが後輩に尊敬されない一因だと思う。
二人でゆっくりと校舎を歩く。
定時制の使用区画は少し早めに全日制の生徒の姿が消える。
それでも、グラウンドではぱらぱらと学生がまだ残っているし、耳を澄ませば生徒達の笑い声やら何やらが聞こえなくはない。
「威張ってるんじゃないよ。中学校や小学校の先生たちに呆れられてたじゃないか」
「お子様まじりでアットホームだったよなー」
話題は先日の顔合わせ宴会。つまり親睦会。
「まぁ教師は本業じゃないし、参考になったよね。って給料はどこに消えてんの?」
「決まってるだろ! 遺跡発掘ツアー参加費の借金返済にだ!」
自信満々得意げに言う姿に呆れる。親睦会で言ってたけど、本気にした人どのくらいいたんだろうな。
ロマンに生きすぎだと思う。
「……たぶん、ウルは結婚しようとしない方が相手にとって幸せだよね」
たぶんいろんな国に泊めてくれるおねーさんがいるんだろうと思うよ。ほぼ確信で。
「ひっでーのー。ハイ発見捕獲〜。有坂健くーん。校内禁煙でーす」
逃れれないように腕を取り、押さえ込む。
それを横から見てるとついイケナイ体勢にくるものがある。
とりあえず、心を落ち着ける。
「じゃあ、小一時間ばかり喫煙の危険性と、他人様都合への迷惑行為に対する意識改革講座、いってみようか」
捕獲した喫煙生徒ににっこり笑いかける。
気軽な喫煙が原因で定時制廃止とかになられると困るんだよね。
喫煙生徒がすぅっと青ざめる。
顔色が変わるのを眺めているとかわいそうな心境にも駆られる。
ああ、注意をしなきゃいけないだなんて苦手なのに残念だなぁ。かわいそうになぁ。
「一時間程度で済んだらラッキーだぞー。むっちゃくちゃ楽しそうだから」
ウルが小声で何か言ってる。日本語って難しいよね。
「日本語は難しいから多分、すこーし、回りくどくなると思うんだ。先に謝っておくねぇ」
ポンっと有坂少年の肩を叩く。
「じゃあ、教室行こうか。自分の授業以外も見学させてもらうことになっていてね」
「じゃあ説教は後回しかよ」
少し期待してると知れる声。バカなことを言う子だねぇ。
「授業を聞きながら黒板を書き写してついでに喫煙の危険性と悪影響についての冊子を書き写して、休み時間には迷惑行為に対する『何がどう困るのか』の説明かな。もちろん、君が理解できるまでがんばって説明したいと思ってるよ?」
有坂少年の表情が再びさぁっと暗くなる。
青くなったり戻ったりまた青くなったりで本当に面白い子だね。
「大丈夫。時間はある。現在、君は定職もバイトもないからね。じっくりいこう!」
ついでに職業斡旋についてまじめに考えてみようじゃないか!
「やっぱり今度、吉祥寺先生に声かけるべきだよなー。ふたりで三つのりんごを分けますさぁいくつづつ?」
「あー、相手に二つで自分にひとつで問題なし。とか、算数としては間違った答えを書いた受験生がいたんだっけ?」
「ああ、笑ったけどさー。俺がお遊びで付け足した問題。瀬尾のじーさん、面白すぎる」
「あれは行き過ぎた例だと思うけど、有坂君も掛け算で間違えてたらしいしなぁ」
「でも焼肉定食はお約束でいいよな!」
明るく言い放つウルのセリフに頷く。定番間違えだと言うんならそうなんだろう。
「有坂君、お勉強頑張る気は?」
泣きそうな微妙な表情になっている少年の顔を覗き込む。
「……ね、ねぇよ」
吉祥寺 ユリさん話題でお借りしてます。




