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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年一月
344/823

信弘12月前半。

 宇美がまだ帰ってこないという梨沙さんの言葉でぶらりと迎えに出た。

 あまり距離もなくふわりふわりと歩く酔っぱらい。

 寒いのも気にならないのか空を見上げて手を伸ばす。

 最近は雪がチラつく日があったりで、足元は滑りやすい。それなのに宇美の足元に目をやれば、滑りやすそうなヒール高めな靴。

「宇美」

 サラリと黒髪が翻る。

 近所の人感センサーライトが点灯して、彼女を照らす。

 無邪気に嬉しそうに笑顔でこっちに駆けてくる。

「ノブにい」


「走ると転ぶぞ」

 ふっと笑顔が消える。


「こどもあつかい」

「宇美?」

「子供扱いしないで!」


 急に怒った酔っ払いは手持ちの鞄を振り回す。

 すっぽ抜けた鞄がアスファルトに滑る。

 惚けた宇美を軽く撫でてから鞄を拾う。

「ほら」

 素直にこくりと頷いて鞄を受け取った宇美はじっとその鞄を見ている。

「梨沙さんが心配してるぞ。帰ろうか」

 手を伸ばす。

「ノブにいは?」

「ぅん?」

「ノブ兄も、心配だった……?」

 そっと甘えるような縋る眼差しが遠のく。


「ねぇ、私は妹でも娘でも、姪でもないのよ?」

 切なげな声とポロリとこぼれる涙。

 当惑の中、呼びかけるでなく名を口にする。

「宇美」

 潤んだ瞳で見つめられる。

「ずっと、ずっと好きなの! 私はずっとあなたのことだけが好き。他の人じゃダメなの」

 叫ぶように叩きつけられる言葉。

「……もう、子供じゃないわ」



「洋一」

「信弘どうしよう!」

 相談しようと幼馴染と時間を作ると、いきなり手を取られた。

 中島なかしま洋一よういち。小学校の先生をやっている。で、小学校からの幼馴染と言うやつだ。

 僕との一番の違いは洋一は八年前に一度結婚し、五年前に離婚している。

 別れた奥さんと暮らしている息子はもうじき小学生になるが住んでいる場所が遠いことやら何やらと理由を付けられて面会はほぼ叶っていない。

 夏に一度会いに行ったら、息子はあたらしい父親に懐いていて父親の違う妹と四人で幸せそうで、結局会うことなく帰って来たとあの日のこいつは泣いていた。

「どうしたんだ?」

芙有香ふゆかが、」

 芙有香さんは洋一の別れた奥さん。

「死んだって、子供達だけ残ったって、」

 呆然とする洋一の手を握る。

「しかも先月の話らしいんだ」

 ぽつぽつと話を聞く。

 いきなり芙有香さんの再婚相手の親族から連絡があって、その状況を知ったらしい。

 連絡を取ってきた理由は『他人の面倒を見ている余裕はこの不況時にない』と言うことだった。

 『一応、縁は切れてるとはいえ、実父だから』連絡をくれたらしい。

「都合がつかず、会わせてもらえなくて忘れられてる現状は縁が切れてるのか!?」

と嘆く姿は辛い。

「どうしたいんだ?」

 一呼吸つける。

 きっと答えは決まっている。

 まとめたいだけなのはわかるのでじっと黙って待つ。

「引き取りたいと思ってる。できれば、妹と一緒に。兄妹を引き離したくないんだ」

「わかっているのか? えにしくんは四月から小学校だが、妹は」

「ああ。まだ三歳だよ。紗羽さわちゃんって言うんだ。母さんは面倒見る自信がないって言ってる」

 お互いに息を吐く。

「それで?」

「学校側には早急に相談して、状況を伝えるつもりだよ」

「そうか。まぁ、喜んで協力するよ。きっと梨沙さんもウチのじーさんも喜んで協力するさ」

 ようやく洋一が軽く笑顔を浮かべる。

「ありがとう。信弘も何か言いたいことがあったんじゃないのかい? ご両親がらみ? それとも……」

 すいっと洋一のまなざしが細くなる。

「宇美ちゃんの件なら、宇美ちゃんならうまくやっていけるんじゃないかな? 少なくとも高敏さんは味方してくれると思うけどね」

 苦笑がもれる。

高敏にいさんはそうだけどな、両親と姉貴はそうはいかないからな。しかも尋歌ひろかが獣医になりたいって言い出してるらしいんだよ」

 僕と同じことを言ってる時点で反対するにできない。

 コレを聞いて洋一も苦笑する。

 戸津の家は人間の医者の家だ。半端に歴史もあるらしく跡継ぎがどうのこうのうるさい。

 僕の世代は姉と僕の二人姉弟。姉が家を継ぐ医者になるのだからと僕は自分の好む獣医の道を選んだ。

 祖父は若いうちに人間の医者から獣医に転向した。

 おおらかに笑って「人も動物だからな」と言う祖父に憧れた。

 両親の理想は医者か、経営をわかった妻を選んで家を守り、病院を盛りたてる医者になる子供を持つこと。

 『そんなもの』『当たり前』の重圧が重い息苦しい家だった。

「高敏さんは尋歌ちゃんを応援しているんだろう?」

「ああ。おかげでこっちへの風当たりも強いんだよ」

 コレまで好きに生きてきたのだから家に戻れと。

「じゃあ、宇美ちゃんと将来を考えたお付き合いをするからそっとしておいてくれと伝えればいい。これまでこれっぽっちも浮いた話が実家に届かなかったお前がその気になった相手で、まだ二十代も前半の女の子だと聞いたらお前の家族は諸手を挙げて喜ぶさ」

「そうだろうさ。そして嫁(候補)いびりをするんじゃないかな?」

「そうか、宇美ちゃんをいびられたくないのか!」

 これ以上面白いことがないというように笑う洋一を見てると仕方がないような気がしてつい笑ってしまう。

「迷惑をかけると思う。だから言っておくよ。ありがとう。信弘」

 改めて言われると照れくさい。

「何、お前に何かあったらそのままうちの子として引き取れるように手配をしておいてくれればいいさ」

 冗談を言って笑う。

「ああ、それはいいな。とりあえず、お前がいれば安心できる。好きなら、余計なことで迷うなよ?」

 いくらなんでも

「迷わず生きていくのは無理に決まっているだろう?」




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