宇美・元旦当日。
少し昼を過ぎた時間、車を出して出かけようとした時に弟のようにみている高校生を見かけた。
迷うことなく声をかけた。
「乗りなさい」
「拒否権は?」
赤い髪をさらりと揺らし、反論めいたものをしてくる。
生意気だ。
「あら。本気で言ってる?」
「昨夜結構遅くまでお酌したと思うんだけど?」
断れる理由になるのを期待するようにあくまでやんわり言い募る。
そして機嫌の悪い私は聞く気がない。
「へぇ。だから何かしらね。海を避けてるって聞いてるけど、電話連絡する? 売り渡しは簡単だわ」
「……たち悪りぃ」
ぼそり呟かれた本音。
「あら。なぁに?」
「なんでもないです。喜んでお供させていただきます」
「最初っから素直にそう言ってればいいのよね」
諦めた千秋君を乗せて出かけた先はうろなから少し離れた人里離れたとある施設。
冬の早い陽はすでに落ち、あたりは暗い。柵にもたれつつ、千秋君が少しそわそわしてる。そう先ほど後にした施設にちらちら視線をおくる。
「今日は付き合ってくれてありがとうねー。こういうお休みの時って人手が足りないから男手助かったわ」
「元旦だもんね」
「で、どうだった?」
「……うん」
ちらりとまた振り返る。
こういうところは子供っぽくてかわいい。
「一目惚れ?」
「な、のかな? すごくドキドキする」
「うまくいくかどうかはわからないけれど、努力してみなきゃね!」
ためらうように頷く千秋君を連れてうろなへの帰途に着く。
旧水族館、千秋君の家の前に車を止める。
「十日の夕方からまたあそこに行くけど、一緒に来る?」
頷くのを確認して笑う。
出掛けに嫌がってたのを思えば面白い反応だ。
それでも多少利用してしまう罪悪感はある。
「泊まりになると思うけど、大丈夫?」
迷いない頷きが返る。
「ノブ兄も一緒なんでしょう? 気まずいかもしれないから?」
「そうよ。ノブ兄が平気でも私が平気でいられる自信がないのよ。千秋君は千秋君の出会いを育めばいいと思うわ。彼女、可愛かったものね」
「ん。慎重に接しないとすぐ嫌われそうで、ちょっとコワいな。それに他の人のほうがイイって思っちゃったらって思うと」
不安そうに視線を泳がせる千秋君の腕を軽く叩く。
「きっとうまくいくわよ。千秋君の気持ちをちゃんと届ければいいのよ?」
そっと、どこかまだ困惑気味に笑う千秋君を送り出し、帰途に着く。
千秋君には千秋君の問題が、私には私の問題がある。
そこをどう対応するかが問題なのよねぇ。
ノブ兄がすぐ答えを出してるだなんて期待はしてない。
でも、好きだって言うのが本気なのはわかってくれてる、よね?
駐車場で車から出る前にメールとスケジュールを確認する。
こういうことは海がいいんだとは思うんだけど、メールするのはためらわれる。
『一月十日から少し泊りがけで出かけるんだけど、空ちゃん誘いたいのだけど、隼子が空ちゃんには内緒にしといたら楽しいとか言ってて、メールあっちから行ってるかしら?』
空気が微妙なのは確かだから、誘うのも気が引ける。
『知り合いの提供してくれるコテージに泊まって自炊。枠は二つ開いてるの。どうかしら?』
隼子が鎮君拉致るって宣言してたからな。
あの近所にある旧家からの寄贈本の受け取り。
まぁつまり隼子は半分仕事だ。
それを餌に拉致れるって確信してるのがどうかだよねぇ。
そう、少しでも人が欲しい。
こわいの。
何の動きもそれまでにないことや、『保護対象としてしかみれない』なんて答えられたらと思うとどうしようもなく、
こわい
「ちょ!」
送信済みになったメール。
「ああ、もう、誤送信しちゃったってメールしちゃおうかしら」
せめて陸に送りたかったわ。
もーやだぁー
青空さんちお名前だけ借りてます。




