ひきつぐものの欠片
「どうしたの? テス」
そっと抱きとめしゃがんで視線を合わせてくる淡い青の瞳。
その手から逃れようとしてもうまく身動きが取れない。
「抱きしめちゃダメなの?」
切なげな声に動きが止まる。
「いいよね?」
言葉と共に頬に感じる口付け。
「テスって呼んじゃダメなのよ」
彼は柔らかく笑う。
「愛してるよ。セシリア」
「ちがう。それは、私の名前じゃない」
「でもティセリア。君が名も含む総てを引き継ぐんだよ?」
ランバートは優しく笑う。
否定できないでいる私を抱きしめて撫でながら。
「私は、芹香なの。だからそれは私の名前じゃないよ」
「テス。欲しいものはね、綺麗に手に入るものとそうでないものがあるんだよ。でもね、壊すことできらめき美しさを増すものもあるんだよ?」
楽しげなランバートの声。その手は柔らかく髪を頬を撫でる。
言葉の意味は半分くらいわからない。
「芹香よ」
「シーとチアキはキレイだよね。リューイとリョーイ、あの子たちはあの子たちで興味深い」
好奇心を多分に含んだ声。
「ダメよ」
「あのね、テス。シーとチアキは最初から私のモノだよ。でも、リューイとリョーイは確かに違うから、見てるだけのつもりだからね?」
駄々っ子に言いきかすような口調。
「ダメ。だって言ってるの!」
「心配の必要はないよ。まだ観察段階だからね」
「ランバート! ダメよ。あのね。私は、ダメって言ってるの。わかっている?」
どう言ったらわかってもらえるの?
「もちろんだよ。セシリア」
ふわりとコートが被せられる。
さっきまで着用されてた大きなコートはまだ体温を感じさせてぬくい。
「芹香だって言ってるでしょう」
聞いてくれない。言葉の通じない様に力が抜ける。
「疲れちゃったの? セリカはまだちっちゃいものね。大丈夫。連れて帰ってあげるからね、寝ても大丈夫だよ」
優しく撫でられる。
「ロリコン誘拐犯発見!」
「待って! 重ちゃん、アレウチの兄貴!」
重ねぇと鎮兄の声。
「シーの本命ってどの娘?」
ランバート兄の小さな呟き。
瞬間、答えられない。
えっと、本命は空ねぇだと思うけど……な。
あのレベルで仲のいい女の子、そういえば結構いるよね。
「ごめんね。芹香、芹香は大丈夫だって思っちゃってたんだ。芹香はなんにも悪くないからね?」
そう言葉を紡ぐ鎮兄の頭がいい音を立てて叩かれる。
「まったく、外でする会話じゃないわよ。慌てて海にメール送っちゃったし、ARIKAの方、行くわよ! 無事なの伝えなくっちゃ! 行くわよ。ロリコン兄弟」
「ロリじゃねぇよ」
「ロリじゃなくて、ただのシスコンだと思うんだよねぇ。ホント暴力派で無神経なお嬢さんだね」
「バ、バート兄!」
止めるように上げられる鎮兄の声。
重ねぇとバート兄の睨み合う姿が視界から消える。
「寒くない? だいじょうぶ?」
頷いて、鎮兄の服を掴む。
ふわりと抱き上げられる
普段なら恥ずかしくて嫌だけど、今はいいよねって思う。
言ってくれなきゃわからない。でも、告げることがこわい。
「あのね。みあちゃんのあちゃんとばっかり 過ごしてて、ズルイなって思っちゃったの。本当にちょっとだけよ?」
ぎゅうと身をすり寄せてそっと小さく囁く。だから、少しだけの本当を混ぜて告げる。
「ごめんね。芹香。しっかりしていてもまだちっさいんだから遠慮なんてしなくていいから。大好きだよ」
鼻先にそっと触れる感触。
「そこまで、ちっさくないもの」
ARIKAで降ろしてもらうと心配そうな汐ねぇ。迷わず抱きつきに行った。
「バカ千秋がひどいのーーー」
ほんのり青空一家お借りしております。




